第587回 フルヴァツカをいく! ②
毎回のことですが、恐ろしく荷物が少ないのです。行きも帰りも移動に2日ほどかかるので、今回は実質7泊10日の旅なのですが、とてもそうとは思えない荷物の量。おかげで機内にも全荷物を持ち込めますし、この大きさの鞄を転がしていても海外旅行者だとは気づかれず、逆に人に道を尋ねられたりするのです。
あまりの少なさにいささか不安を感じつつ、出発。夜10時の便で空港では両替できませんでしたが、日本円が海外でどうにもならないことはないので、気にしません。それよりも、パリからザグレブ空港への搭乗券が発券してもらえなかったのが気になりました。クロアチアはシェンゲン未加盟のため、そういった不便がおこりうるとのことでした。
「しかも、お客様は乗り換えの際ターミナルが違いますので、場合によっては一度入国審査をお受けになってから、クロアチア航空のカウンターで発券していただくことになるかもしれません」「そうなんですか。その場合は第一ターミナルで発券していただけるのですか?」「ええと…。申し訳ありません、それはこちらでは分りかねるので…。パリについてから、ご自身で現地のスタッフにお尋ねになって下さい」なんなんだ~?なにやら、面倒くさそう。
パリに着くのが朝の4時。そんな時間にあの、どこかきちんとしていない空港(ドゴール空港)は機能してくれるのだろうか?スタッフなんて、対応してくれるのだろうか?どうせ、セルフチェックインのできる機械なんて一部にしか導入されていないんだろうし、到着ターミナルが第二で、出発が第一。ちゃんとターミナル内の移動はできるのかな…。
シャルル・ドゴール空港は、どうも苦手なのです。いつも人は多いしざわざわしていて、実際にはそうではないのに都会の真ん中にあるような雰囲気があって、ちっとも「ヨーロッパに来た!」…という実感が持てないのです。
ところが。ゲートに到着して、成田からの便のお客さまがそれぞれの方向に姿を消してからというものの、そこはいつものドゴール空港とはおもえないほどの静けさにつつまれました。まるで“夜の空港ガイドウォーキングツアー”なんてアトラクションみたいです(但し、他の参加者もガイドもいないのだけど!)。こんなドゴール空港なら、好きになれるかも…。実はフライトスケジュールの関係で私はここで8時間も時間を潰さなければならなくて、それを憂鬱に思っていたのですが、反対に考えるとそれだけ充分すぎるトランジットの時間があるということなのです。いつもの2~3時間内での乗り換えに比べて、気持ちにも、余裕があるのを感じました。
「ああ、時間があるって素晴らしい!」ターミナルへ移動するためのバス乗り場に向かいながら、なんだか楽しい気分になって、思わずひとり言を発しました。地底に滑りこんでいくようなデザインと照明の、長い長いエスカレーターも、前にも後ろにも乗っているのはわたしひとりです。「すごい!」ふつうなら心細くなるところなのかもしれませんが、ドゴール空港をジャックしているような気分になって、すっかりテンションが上がってきました。
第一ターミナルへは、途中でバスを乗り換えないと移動できないことが判明。しかも、あまりにも時間が早すぎてバスがまた稼動していませんでした。さすがドゴール空港、何時に始発のバスがでるのかもはっきりしないまま(一応、掲示板に5時と書いてあるのですが、5時を過ぎても来る気配がないので、係の方を呼び止めて尋ねたら案の定「まぁ、とにかく青いのがあなたのバスですから、それが来るまでお待ちなさい」のひと言。)待合室でひとり。やっと来たバスに乗り込むも、乗客はわたしひとり。乗り換えのときも、やはり同じように“貸切”でした。
さて、第一ターミナルに到着するも、時間が早すぎてターミナル内は一部閉鎖されている状態で、いちいちの移動で警備員に鍵を開けてもらわなければなりませんでした。彼らは私が行くとまた鍵をかけています。お手数をおかけしてしまいますが、仕方ありません。しばらく歩いて、また鍵。「この先の階段を下がって、そのあと右に進んでまた階段を上がってください。そこにまた職員がいるから、次のドアを開けてもらって」そのとおりにすすみ、また次のミッションをもらい、搭乗券の提示を求められるたびに「まだ手元にないの。成田で発券できないといわれて、この控えしかないんです」まるでオリエンテーリングゲームでもしているみたいです。
やっと言われた場所に落ち着いたものの、なんともうそこは出発ゲート。セルフチェックインの機械はもちろんクロアチア航空のカウンターなんて、どこにも見当たりません。空港のフタッフに「搭乗券をまだ発券してもらっていないのですが、ここでお願いできるのでしょうか?それとも、一度でないといけないのかしら」と尋ねるも「どこへ行くの?ザグレブ?ああ、それならまだ時間が早すぎるのから、とにかく待っていただくしかないですね。そのうちにルフトハンザの係が来ると思うわ」「そのうちにって…だいたい何時ごろ?」「さぁ…」
待つしかありません。ルフトハンザ、というのは、クロアチア航空と提携しているからなのでしょう。「なんとかなるわ!」不安は意識的にわきに退けて、この時間を潰すためにもってきた本を開きました。
時間が、ある。その時間を、不安を抱いてイライラ過ごすのと、搭乗券のことなんて忘れてたっぷり時間があることに感謝して早朝の読書を楽しむのと、私は好きなほうを選べるのです。「考えてみたら、人生もその連続なんだ…」与えられた時間を、“どんな心持ちでどう過ごすのか”。それは、人生の中で“何をなしえるか”ということよりも、ずっと大切な気がしてきました。
(フルヴァツカをいく!③に続く)