第578回 おうち de バカンス

「暑いですね」と、挨拶を交わすのも飽きてきてしまうほど、厳しい暑さが続いています。

生まれたときから日本人、梅雨の頃の高温多湿にはなんとか耐えられるのですが、ここまでの暑さとなると、気持ちはともかく、体がいうことを聞きません。「そろそろ練習しなさい」「やだ」「じゃぁ、クローゼットの整理でもしましょうよ」「やだ」…毎日のように、自分の中でこんな会話が交わされます。

こんな“怠け者生活”をしていてはいけない!…と、なんとかこの状態を打破しようと思わなくもなかったのですが、つい最近、きれいに諦めがついてしまいました。一週間近く東北に滞在して、久しぶりに首都圏の熱気に当てられた瞬間に、「こりゃだめだ!」と、ふんぎりがついたのです。

その結果、この夏はまじめに怠けることにしました。

考えてみたら、ここまで厳しい暑さに襲われることのない(少ない)ヨーロッパの人々ですら、三ヶ月ものバカンスをとっているのです。こんなに大変な気候の中で生きているのですから、日本人の私たちが少々のバカンスを過ごしたとしても、バチはあたらないはず。

とはいえ、日本はドイツのように法律で連続休暇を取ることが義務付けられているわけではないので、仕事は通常どおりこなさければなりません。それに、何週間も遊んで暮らせるほどの経済的余裕もありません。そこで、暑さが一段落するまではいつもよりも“ゆるい”ペースで過ごすことで、プチ・バカンス気分を味わおうと考えたのです。

折りしも「おうち外食」「おうちパーティー」「おうち居酒屋」「おうちカフェ」…と、最近は“おうちナントカ”がブームみたいなので、それならば「おうちバカンス」をしてしまえ、というわけです。

まず、「日程」を決めます。その方が、より“バカンス期間”を認識しやすくなる気がするからです。私の場合はバカンス初心者なので、本日から約一ヶ月間…8月いっぱいまでとしました(少々たりないのですが、9月の1日、2日と、山形でのピアノコンクール本選会審査のお仕事が入ってもいるので、自ずとそうなりました)。そして、期間限定の“バカンス特典”を定めます。その内容は、以下のとおりです。

一、ピアノの練習はしたければしたいだけするが、一日中まったく弾かなくてもよしとする(←ピアノのない別荘に来ていると思って、基本的には無理に楽器に向かわない)。
一、料理はなるべく手を抜く(←必ずしも三食作らないで、旅行に来ていると思って外食にも頼る)。
一、寝たいだけ、寝る(←夜更かししてもいいけど、普段しないお昼寝をしてもよし。午前中に仕事のない日は、時間を決めずに目が覚めるまで寝ていても自由)。
一、食べたいものを食べる。食べたいものを我慢しない(←油っぽいもの、冷たいもの、甘いもの…。期間中は、食べたいと思ったものは栄養とかバランスなどをあまり気にせず、本能にまかせてどんどん食べる。ただし、食べるときにはゆっくりと)。
一、体重計に、のらない(前の項目との関連で、余計なストレスを排除する目的から。体重計のない別荘に来ていると思うべし)。
一、本を読む(←時間的・気分的に余裕がなくて、“読みたかったけど読めずにいた”ものを、じっくり愉しむ)
一、毎日一時間ほどは、テレビもつけず、本も読まず、音楽も聴かず、ただ「ぼ~っ」としてみる(←普段、これがなかなかできない性分なので)

どうでしょうか。ドイツ人に話したら「こんなばかなことを、まじめに考えたの?」と、笑われそうですが、ホンモノのバカンスではないのですから、ある程度の作戦を練る必要はあるような気がします。実際には、このバカンス期間中にも、ありがたいことに通常の生徒さんのレッスンや、久しぶりにオーケストラで弾くお仕事も入っています。でも、少しでも気持ちと体力に余裕をもって、過ごしたいのです。

考えてみたら、バカンスとは「空っぽ」「空白」の意味。寝苦しくて寝不足になっても、体がだるくて動きたくなくなっても、それを受け入れて許せるようなぽかんとした心のゆとり…。それこそが、バカンスの極意かもしれません。

暑いときは、その暑さを愉しめたもの勝ち。みなさま、短くても長くても、どうぞよいバカンスをお過ごし下さい!

2012年08月03日

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