第568回 praise with smile!
黄色い帽子をかぶった学校帰りの子どもたちが、ふざけたり手をつないだりしながら連れ立って歩いている様子は、いつの時代にもなんとも愛らしく、微笑ましいものです。
発表会が終わって、生徒さんやご家族の方ともいろいろなお話をさせていただくにつけ、子どもたちにとって大人からのひと言や、ちょっとした励ましがどんなにか大きなものであるか、再認識させられます。誰に、どんなふうに褒めてもらえたかを語るときの子どもの目は生き生きと輝き自信に満ちていて、話をきいているこちらも幸せな気持ちになります。
難しいのはわかっていながらもどうしても弾いてみたい、と、憧れの曲に挑戦したYちゃん。途中、気持ちが折れそうになりながらも懸命にお稽古を積み重ね、発表会当日は堂々たる演奏と、落ち着いたステージマナーを披露して、大満足の出来栄えでした。ステージのそでに引っ込んできた彼女は、ちょっとしたレディーの風格さえ感じられ、眩しいほどでした。
無意識のうちに「すごいすごい!Yちゃん、とってもよかったよ!」と、彼女の頭を撫でてしまいました。Yちゃんはもうそんなちびっ子じゃないのに…。でも、後日お母さまから「Yは、発表会で美奈子先生に頭を撫でてもらえたのが、何より嬉しかったみたいです。どうもありがとうございました」と、お話を伺いました。嬉しかったのは私のほうでした。
特に女の子は、体はちいさくても中身は立派な女性。細かいファッションチェックが入ることも珍しくありません。「あれ?美奈子先生、髪の毛短くしたの?」(←ボーイフレンドも気づかなかったのに!)、「ねぇ、美奈子先生は女の子なのに、なんでそんな男の子みたいな(太い)ベルトしているの?」(←ボーイズっぽいスタッズのはいったハード系のベルトをしていた時のこと。彼女は女の子らしいテイストが好きらしい…)、「あっ、美奈子先生、今日はスカートじゃない!そういう格好しているの、初めて見る気がする…」(←真っ白いパンツスタイルだった時のこと。実はパンツのときもけっこうあるのだけど、スポーティーなイメージが新鮮だったのか?)などなど。
彼女たちがそんなですから、私もなるべく気配り目配りを利かせるように心がけます。「○○ちゃん、今日のシュシュ(髪飾り)、お洋服と色があってておしゃれね」「○○ちゃんはお帽子がよく似合うのね。こないだは違うのをかぶっていなかった?自分で選ぶの?」
レッスン終了後に玄関先で彼らが身支度する間の、まさにつかの間のそんなフリートークを、生徒さんも楽しみにしていると、お母さまから聞いたことがあります。レッスン中はすこし緊張する(ある程度、そうじゃないと困るのだ)けど、その玄関トークでふっとリラックスできて、気持ちが軽くなるのだそうです。
一方、こんな失敗もありました。発表会前のある日、Mちゃんのお母さまからこんな相談を受けたのです。「Mが、発表会の曲が思うように弾けないことをすごく悩んでいるんです。私がいくら“初めの頃よりもずっとよく弾けているわよ”といっても納得いかない様子で首を振って、“お母さんに褒めてもらっても~”と…。こんなことお願いして大変申し訳ないのですが、美奈子先生から励まして頂けませんか?」
迂闊でした。Mちゃんはとても感性が鋭く才能豊かで、かたちだけ褒めようものなら、確かに見破られてしまうのです。それがわかっているので、さらに大きく力を伸ばしたくて「Mちゃんならもっとできるはずよ。もうちょっと、頑張ろうね」と、ついプレッシャーをかけてしまっていたのでしょう。そこで、次のレッスンでは早速、具体的にどこがどんなふうに良くなっているかを話し、「こんなに上手になっているのだから、あとひと息ね!」を強調して見送りました。そのあと、Mちゃんがお母さんの待つ席に戻るときに見せた嬉しそうな笑顔が忘れられない、と、後日お母さまがおっしゃって、感謝して下さいました。彼女の発表会でのステージは、大人からみても感動的な完成度でした。
幼い頃、母に叱られたときのことを、ふと思い出しました。子どもながらに、悪いことをしたから叱られたのだ、ということは理解しているので、叱られたが最後、一刻も早く許してもらいたくて「ごめんなさい」「もうしません」など、謝罪のコトバの大連呼!(時に、よせばいいのに下手に口答えをしては、お叱りが何倍にもなって戻ってくる、という失態をしましたが)。
そののちに「許してもらえた」と感じるのは、「もう、しないのよ。わかった?(わかった、と、うなずく私)…なら、いいわ」という許可によってではなく、母が私に微笑んでくれることによってでした。ですから、言葉で許してくれてもそれが得られない時には「ママ、もう怒っていない?ねぇ、ママ、怒っていない?」と、母があきらめて(?)私に微笑んでくれるまで、執拗に質問し続けるのでした。
人間も生き物。よい環境の中でのびのびと生きていたいのは、人間も他の動植物も同じです。このところ、竜巻がおこったり雹が降ってきたり…と、不安定な気候が続いています。体調や気分が不安定になりがちだとしても、無理のないことです。
でも、微笑みによって気持ちが明るくなったり、褒められてぐっと前向きな気持ちが高まったりするのは、人間の特権かもしれません(ワンちゃんを調教するときも「グッド・ボーイ!」)と褒めてあげますが、どうも彼らは言葉よりもそのあとの“ご褒美”の方を喜んでいる気がします)。つまり、「笑顔で褒められたら、気分は最高!」ってこと。
今日は午後、8人の生徒さんのレッスンが入っています。よおし、気合たっぷりのスマイルでいこう!(笑)