第558回 スマートになれない…
携帯電話が出始めた当時は、それがここまで普及するとはとても思えませんでした。ところが、ふたを開けてみると電話回線を引こうと申請しても工事が完了するまでに5年かかるとも10年かかるともいわれていた、劣悪なインフラ状態だったハンガリーやポーランドなどでまたたく間に普及して、日本でもあれよという間に小型化、薄型化、多機能化が進みました。
数ヶ月前には「美奈子ちゃん、ブログをやっているでしょ?それに、外にでることも多いでしょ?だったら、絶対スマホにすべきだって」と、友人に言われても、ちんぷんかんぷん。スマホって?ふうん、スマートフォンってうんだ。でも、スマートっていうわりには今までのものより幅広じゃない?ああ、“気がきいていて手ぎわがよく、当世風”っていうほうのスマート、ね。…と、目を泳がせているようなレベルのわたしですが、二週間ほど前にスマートフォンと呼ばれるものに変えました。独自の登録商標で呼ばなければならないことになっているような、背面にりんごのマークのついているものです。
「携帯電話というより、考え方としては“通話のできるパソコンの子機”みたいなもの。パソコンメールを外で受信できるし、ブログの更新だってどこでもできるようになるし。どんどん必要なアプリケーションを入れて、パソコンとUSBで繫げて同期させていくのね。通話は回線を使わないで、パケットでできるアプリを使えば他社同士でも通話料金がかからないし、音質も抜群なんだよ…」説明を聞いても半分も意味がわからないし、なんだか聞けば聞くほど“虫のいい話”でだまされようとしているような気分になってきます。
だいたい、「ワープロ」というものが世の中に登場したときも、母の方がずっと早くそれを取り入れ、使いこなしていたくらいのメカ音痴、というより、正直なところ、メカ嫌いなのです。だって、ルーターだのモデムだの、外付けハードディスクだの…。やたら便利そうな名前をしていても、見た目は無機質でちょっと安っぽい(失礼!)材質、デザインで、リビングにおいても幸福な眺めに貢献してくれるとはとても思えません。
なかでも、一番私を憂鬱にさせるのは…他でもない、コードやアダプターたちです。彼らはいつのまにか増殖して、コンセントの周辺はラッシュ時の道路のような大賑わい。うねうね格好悪いし、色も統一されていないし、熱を持ったりするし。きっと、いろんなことが整理されずに絡まっている自分のアタマの中を、実写版で見せ付けられるような気がしてしまうのでしょう。
そこへきて、確かにりんごのマークの会社は、がんばっている感じは、します(性能のことはまったくわかりませんが…)。そこで、使ったこともないのに先入観でやいのやいの言うのもよくないかな、と思い、一度試しに持ってみることにしました。ただし、相当にてこずることが予想されたので、“リサイタルのあとで”と、心に決めて。
果たして…。ちゃんと前機からのアドレス情報の移行も自力でできましたし、メールやインターネットの環境も整えることができました。スマートフォン独自のタップやタッチ、入力の方法も2~3日で慣れました。あっけないほどでした。「あら?まさかの楽勝?」…さすが、直感で操作ができると評判だけのことはあります。でも、まさかこんな落とし穴があるとは思っていませんでした。
問題は『パソコンとの同期』。なにぶんにもパソコンが非常に古く、しかもウィンドウズ。ハードディスクの空き容量もない、いわば体力を失われ「余命わずかな老人」状態にある私のこのパソコンは、このちいさなりんごの端末の何十倍もの重さがあるというのに、もはやこの子のバックアップをとることができないのです。
いいえ、方法はいくらでもあるのでしょう。しかし、それを一つ一つ試すような知識も時間もありません。同期の途中で、外出する時間も迫ってきてしまいました。「どうしよう…」やむなく、途中で中断して、そのまま端末をもって外にでました。すると…。
すぐ、ではありませんでした。なぜかパソコンとの通信を中断した20分後くらいから突然、常に画面が圏外になり、通話もメールもインターネットも…一切の通話ができなくなってしまったのです。メールの設定をしなおそうとしても、「無効なユーザー名」だの「パスワードが違う」だのとけんもほろろに断られてしまう始末。
結局その日は、“タバコの箱より薄いが大きく、タバコの箱よりずいぶん重い”この道具を一日バックに忍ばせて、もっぱら時計としてのみ使って終わったのでした。
その後、通信は復旧したものの、苦労して移行したアドレス情報のデータは消えてしまいました。再びアクセスしても、やはり「IDがちがう」「パスワードがちがう」とエラーメッセージが繰り返され、お気楽なわたしもさすがに凹んでしまいました。
君(小さいりんごちゃん)には、パソコンでできることのほとんどが、できますよ。それどころか、アプリケーションを入れれば懐中電灯にもなる、動く書斎(本屋?)にもなる。世界中の友人との社交場にもなるしスケジュールを管理してくれる有能な秘書にもなってくれる。でもね…。
すぐキレたり(バッテリー)、同じ台詞を連発して相手をげんなりさせるのって、本当の成熟したオトナとはいえないんじゃないかな~?ほら、自分のことは自分で責任を持つ、っていうでしょう?せっかく携帯するものなのだから、振動エネルギーをバッテリーに充当して、“自給自足”できる機能をそなえている、とか、カスタマーの意向に添えなかったときには、たまにははんなりと「恐縮ですぅ~」ってあやまるとか。そういう方向性、どうでしょう?
あ!いけないいけない、気がつけばもうお雛さまです。リサイタルを終えたらやらなくちゃ、と思っていたもうひとつのこと…『確定申告』を片付けなくては!はぁ、毎日ドタバタじたばた…なかなかスマートにはなれなれません。