第539回 信じる?“スーパーナチュラル”
人間は肉体と精神とでできています。
肉体を維持するためのビタミン剤や栄養補助食品は過剰なくらい出回っているし、
それらのものに関しては、あなた方もとても敏感に反応する。
なのに、もう一方の精神を健やかに維持するものに対して、あまりに無頓着です。
では、精神におけるビタミン剤や栄養補助食品に匹敵するものは何か?
それこそが「文化」なのです。
ですから、それが欠ければ、当然精神的栄養失調が起きます。
いたずらにイライラしたり、焦りを覚えたり、落ちこんでみたり、自信をなくしたり、
理由のない怒りがフツフツと湧きあがってきたり・・・
そんな経験があるとしたら、あなたの心が飢えている証拠でしょう。
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ある著名な方のオフィシャルサイトを開いたら、表紙にご本人のこんなメッセージが紹介されていました。さて、どなただと思いますか?
答えは、美輪明宏さん。著書『天声美語』からの引用でした。
美輪さんというと、独特の風貌(1935年のお産まれとは信じがたい!)や霊的なご発言による強烈な印象が強かったのですが、改めて考えてみたら寺山修二さんや三島由紀夫さんとも交友があり、音楽、舞台だけでなく文筆活動もしていらっしゃる多才な方です。美輪さんのご意見が説得力を持って多くの人をひきつけているのは、自然なことかもしれません。
「ミナコはスーパーナチュラルって、信じる?」アメリカにいたときに、友人にこうたずねられたことがあります。良くわからなくて「スーパーナチュラル…?それ、どういう意味?」と聞き返したところ、「その名のとおり、超自然、よ(笑)!ほら、霊的な現象とかその存在とか、奇跡的な神の力とか…そういうこと全般のこと」との答えでした。「よくわからないけど…私はどっちかっていうと、信じない方かな」霊が見えるとか金縛りとか、なにやら怪しく恐ろしげなことばかりが頭に浮かんで、気のない返事をしたように思います。
科学的には証明できないようなことが世の中には色々あることはわかっていましたが、素直に神さまの存在などを信じるには経験不足でしたし、子供の頃にみた『ドラキュラ伯爵』の白黒映画があまりにも怖く、以来すっかり怖がりやになって、オバケや幽霊の類には拒否反応を示していたのです。
でも、芸術の力も一種のスーパーナチュラルなのかもしれないな、と、最近では思うようになってきました。霊や幽霊の類を見たことはありませんが、音を聞いて目の前に映像が浮かんでくることはしょっちゅうですし、小説を読んでいると主人公のいる場所や時代にワープするような感覚に陥ることは珍しくありません。それらを広義な意味で「超自然現象」と考えれば、「芸術=スーパーナチュラルな何か」ということが言えなくもないのではないか、と。
それにここ数年、「神さまのお導きかしら」と思えるような出会いが重なっています。あるお店で偶然お会いした方が私のリサイタルのフライヤー(チラシ)製作に関わってくださることになったり、またそのお店もリサイタル当日に皆さんにお配りするプレゼントのことでコラボレーションをしてくださることになったり。また別のところで偶然に知り合った方がコンサートの依頼をしてくださったり、生徒さんとのつながりが思わぬ方向に広がっていったり、などなど。
夢が現実になったり、虫の知らせを感じたり、運命の出会いを体験したり…。そう、スーパーナチュラルは、何も怪奇現象(?)のことだけではないのです。それどころか、考え方によっては、この世に生を受けたことだって、“奇跡的超自然”現象と、受け取れなくもありません。
もしかしたら今、自分が生きていること自体もミラクルスーパーナチュラル(カタカナにするとさらになにやらすごい感じ…)な現象なのかもしれない…!?来月誕生日を迎えまた一つ歳をとる予定になっていますが、生きた時間のぶんだけ、そんな心ときめく出会いや、出会いに感謝する機会が増えていくとしたら、人生のコマを進めていくのは、思っている以上に楽しいことなのかもしれません。