第533回 真夏の夜の夢
最近尾瀬沼に行ってきた友人が、想像していた以上に素晴らしく良かったと、その感動をたっぷりと話してくれました。
実はわたしも学生時代、友人と尾瀬沼を6時間ほど歩いた経験があります。山登りとは程遠い服装で出かけて、同行してくれた友人のお兄さんに「おいおい、君たちそんな格好で大丈夫なの?」と、つっ込まれたのは覚えているのですが、肝心の散策の方はあまりの強行スケジュールによる疲れのせいか、しっかりと記憶が残っていないのです。
写真では到底伝わらないスケール感、空気感…。彼らは富士山頂に登った直後だったのにもかかわらず、その感慨はある意味、富士山登頂を上回るものだったようです。曰く、富士山は人もすごく多くて、山のぼりを純粋に楽しむというよりはなんだか“イベント”みたいな色が濃く感じられたのだそうですが、その点でも尾瀬沼散策はトレッキングの原点を味わうことができたとのことでした。
「それに、尾瀬って電波が通じないのね。だから、ほら、今や富士山でもみんな写真を撮っては、みんなスマホをこうして(スマートフォン独特の画面タッチをジェスチャーして)ツイッターとかに“山頂ナウ”みたいなこと発信してるけど、それをやっている人が誰もいないのよ。そういうことも、なんだかすごくよかったの」
うん、うん、それすごくわかる!…と、激しくうなずきながら、ああ、かの地の虫の声や風の音はどんなだったろう、ただひたすら、その中を歩いて、歩いて、だんだん心が無になっていく感じはどんなに気持ちのよいものだったろう、と、想像して、しばしウットリとしたのでした。
ちょうど、その日の夕方近所を歩いていた時に、あまりの大音響のセミの声、ゴロゴロと地鳴りならぬ“空鳴り”している雷の音を聞きながら「夏って、実にドラマティックな音に満ちているものだなぁ。それにしても自然の“効果音”ってすごい!」なんて感じていたところだったので、尾瀬のお土産話はタイムリーなストライクでした。
お土産の、水芭蕉のかたちをした“尾瀬沼ソフトクッキー”をもぐもぐ頂きながら「いいなぁ、尾瀬。わたしもまた行ってみたいなぁ。しばらく山登りもしていないなぁ」とつぶやくと、友人は「今度行きましょうよ!手始めに、まず富士山登頂でもどこでも!」なんて、冗談のような提案をしてくれました。日本一の山、富士山かぁ。夢だなぁ。
ところで。
12年ほど前からホームページを作り始め、それがブログになり、ブログよりもリアルタイムなツイッターなるものがそれにとってかわる勢いになってきたのでそれも始めたら、まもなく「ツイッターよりもフェイスブックの方が使えるよ!」ということになり、フェイスブックを始めるもあまりのプライバシーのなさにうろたえて知人に相談すると、「フェイスブックよりもグーグルプラスが断然おすすめ!グーグルプラスが主流になるのは時間の問題だからね」なんて話になり…。
この数年で、どれだけ世の中が変わったことでしょう!今や、地球上のどの場所であってもリアルタイムでその画像を手に入れることもできれば、必要な情報を世界中の資料からいくらでも取り寄せることも思いのままです。ついこの前まで、みんなYahoo!(ヤフー)を“ヤッホー”とか、Google(グーグル)を“ゴーグル”とか言っていたのが、もう遠く彼方の昔の出来事のようです。
つまり、この電脳生活についていくのは、行動が遅くてクラシックなライフスタイルを愛するわたしにとって至難の業なのです。もう、いっぱいいっぱい。「お願い、待ってぇ~!」と、手を伸ばしつつ、走って追いかけてみたところで、とてもついていけそうにありません。
今や、電波が通じないことは致命的な不便さを意味することは理解しています。が、それでもちょっと憧れてしまいます。夢みてしまいます。ヨーロッパの人のように、2ヶ月か3ヶ月の間、自然の豊かな不便なところで、100年以上も昔から変わらない生活を送るバカンスを過ごすことを。
例えば、フィンランドの田舎のような、水と空気がきれいでできれば近くに湖があるサウナつきのログハウスなんか、最高だな~。テラスで朝食をとったりティータイムを楽しんだり。お昼ごはんのあとはシエスタをとって気の向くまま湖や川で釣りしたり。お散歩したりジョギングして過ごして、湖で水浴びするもよし、サウナですっきりするもよし!夜は、たまに近所の人を招待して屋外でバーベキューなんかしてみたり…。はぁ。夢だなぁ(←遠い目で)。
はっ!?(←我に返る)
その場合、独りでバカンスっていう想定は避けたい。避けさせていただきたい。だって、バカンスは家族と一緒じゃないとつまらないし、だいいち、格好がつかない…って、あら?一番ハードルの高い夢はその部分だったりして!?