第514回 手をつなごう

【プロ野球は17日、東日本大震災の影響が懸念される中、セ・リーグが予定どおり3月25日に開幕し、楽天が拠点とする仙台市が甚大な被害を受けているパ・リーグは4月12日に開幕を延期すると正式発表した。開幕延期を求める日本プロ野球選手会の反対を押し切る形でのセの強行開幕に賛否両論が噴出。電力不足による真夏のリーグ中断の可能性など課題が山積する中で“球春”を迎える。

25日は東京ドームと神宮でナイター開幕する。東京ドームのナイター開催に必要な消費電力は1時間当たり約5-6万キロワットといわれる。一般家庭が1日に消費する電力の5000世帯分以上に相当する。セの首都圏3球団の本拠地球場は計画停電の対象外とはいえ、首都圏住民が暗い夜に耐える中、ナイターは実施される。】

緊急時には、国家、企業、地方自治体や個人…それぞれの考え方や価値観が、良くも悪くも露呈するものなのだ、と思い知らされるこの頃です。

被災地では、正常な生活に戻れずに困っている人が、もっと困っている人を気遣い、助け合っている一方で、さしたる被害のなかった地域でモノを競うように買い込んだり、利己主義な行動や判断に至る人もいる…。なんだか、自然という教官に、私たち人間の社会性、道徳性、本当の意味での協調性が、試されているような気がしてなりません。

でも、国家、企業などの方針はともあれ、日本人は本当にすばらしいと思います。特に、子どもたちの健気さには胸を打たれます。自分よりももっと幼い子供の面倒を懸命にみながら、先の見えない不自由な避難生活を送っている少女の「明るく、頑張っていきます!」という笑顔の向うに、本当はいったいどれほどの不安や恐怖があることでしょう。それらをオクビにも出さないどころか、大人までを励ましてしまうそのパワーは、どこから来るのでしょう。

きっと、子供は本来の「人」の姿に近いのでしょうね。人は本来、自我を表現してそれを認めてもらったり、あるいはうまくいかなかったり、と、周りの人たちと関わることから多くを学び、笑顔になる、とても強靭な生命力をもっているのです。赤ちゃんのように。

赤ちゃんが健やかに育つために一番大切なのは、ぬれてもお肌をさらさらに保つ高性能なオムツでも、栄養をバランスよく摂取できる粉ミルクでもなく、まずはお母さんのぬくもりと、愛情いっぱいの抱擁なのです。大人も、実体は“大きく育った赤ちゃん”なのだとすると、案外それは大人も変わらないのかもしれません。

私自身の場合は、逆に子供たちの笑顔に抱擁され、笑い声に励まされている気がします。余震や停電の中、レッスンに来てくれる生徒さんたちは、私にとって天使。お母さんと手をつないで帰る後ろ姿に、愛しさがこみ上げてきます。

「美奈子先生、私たちこのあと買い物に行くんですけど、何かご入用なものはありますか?車ですし、何かあったらついでに買ってきますから、おっしゃってください」と、お電話くださった、生徒さんのお母さま。

「美奈子ちゃん、水とか食料はちゃんとある?カセットコンロは?うちには備蓄がたっぷりあるから、必要なものは遠慮しないで言ってね」

「車が必要な時があったら、いつでも知らせて」

食べ物も、ガソリンも、時間も…どれをとっても、皆さんにとっても貴重なものだというのに、何人もの方が独り暮らしの私を気遣って優しい声をかけてくださいます。なんてありがたいことなのでしょう。

譲り合い、助け合う、人と人とのぬくもり。それを届けてくださる皆さんのために、私ができることは少ないけれど、せめて前向きに、笑顔で過ごします。「美奈子先生の顔を見ると、元気になる」と思ってもらえるように…。

不安になったら、となりの人に、手を差しだしましょう。そして、手をつなぎましょう。

2011年03月18日

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