第477回 「もっと早く出会いたかった」と言われる幸せ
5月も末。今年も、ピアノの新しい生徒さんや、音楽塾に新たにご参加くださった方々との出会いに感謝しながら、新しい学期が木々の緑の深まりとともに過ぎていきます。
クラスがえで新しく知り合ったクラスメートに新しい担任の先生、まだパリッとしているノートや新しい教科書のにおい…新学期には何もかもが新鮮で、自分がリセットされるような、心地よい緊張を毎年のように感じたものでした。
学校では、大人になってからもお付き合いさせていただいているような、素晴らしい恩師との出会いに恵まれましたが、ピアノの先生となると、実は一筋縄ではいかなかった部分がありました。父の転勤や引越しに伴って、ある先生のレッスンにようやく慣れたと思ったらまた別の先生に変わることになってしまう…といったことが多かったのです。
ピアノのレッスンは、学校教育のように、“文部科学省の指導要領にのっとって、誰が教えてもある程度内容がぶれないようになっている”という性質のものではないので、先生によっておっしゃることはさまざま。ある先生の言いつけを忠実に守って、指の形や打鍵の仕方、腕や手首の用い方に気をつけて弾けるようになっても、別の先生に変わった途端に、“初めからやりなおし!”と言われることも少なくありませんでした。
日本だけでなく、海外でも何人もの先生にお習いする経験を経て、一番強く感じたのは「教師は、自身のセオリー(理論)やメソッド(方法論)を、生徒に押し付けてはならない」ということ。そして、相手が望むことに対して、いかに適切に手を差し伸べられるか…ということの大切さです。
それを隠れテーマに“ピアノを教える”ということに関わり続けて、はや20年以上…。時間は経ていても未だにきちんとできていないことがあって、レッスンのあとで「あれは余計なひと言だったかな」とか、「“ああ”ではなく、“こう”伝えればよかったかも…」などと、反省することもしばしばあります。
こんな私を励まし、教え諭してくれる最も信頼できる存在は、何といっても生徒さんたちです。
例えば、先週、“お試しレッスン”を受けに来てくれた3歳の女の子は、始めはじっとピアノの前に座っているのももどかしげな様子でしたし、ご挨拶やお返事がスムースにできなかったり、私が“お手本”を見せてもその手をどけてしまったり…と、一生懸命ゆえの混乱が起こっている様子でしたが、やがて私の弾いた音にケタケタっと笑って反応してくれるようになって、最後には、自ら何度も「ありがとうございました!」と、私にぺこんとお辞儀をして、きちんと意志を伝えてくれました。おうちに帰った後も、「楽しかった!」「ちゃんとご挨拶したよ!」と、嬉しそうにご両親に話していたと伺って、どんなに嬉しかったことでしょう。
喜んでばかりではなく、どうしたらもっと楽しんでもらえるか、今後の課題もたっぷりです。小さい生徒さんは、あるお子さんには“受け”がよかったことを、別のお子さんに同じことをしたら、かたまってしまった、ということも少なくないのです。彼らの個性の豊かさ、反応の素直さには、恐れ入るばかりです。パーソナリティーや興味のツボを瞬時に(?)見定めて、こちらがレッスンの内容や方向性を柔軟にシフトすることが求められるので、ある意味でもっともシビアな“腕試し”になります。
生徒さんだけではありません。ご両親がとてもよく理解をしてくださって、お月謝袋に温かなメッセージを添えてくださったり、「娘が、レッスンが楽しいって、喜んでいるんですよ」と、労ってくださると、心から励まされますし、もっといいレッスンができるように頑張ろう!…という気持ちになります(なんのかんの言って、実は単純)。
大人の生徒さんから、「もっと早く、美奈子先生と出会いたかったです」「小さいときから美奈子先生に教わってこれた生徒さんは、幸せですね」、なんていうお言葉を頂いたりすると、もう感謝で涙がでそうになってしまいます。至らないところがあるのは間違いないことなのに、そんなふうに受け止めてくださるなんて、なんてありがたいことでしょう。
昨日はある生徒さんから「私はすっかり美奈子先生のファンですよ。音楽を通して感じ取れる、知的好奇心の旺盛でいらっしゃるところや鋭い洞察力、謙虚さ、それにユーモアのセンスがたっぷりなところも…」なんて、もったいないようなファンレター(?)をいただきました。
彼女は、私が「お体、ご自愛下さい」とするところを、例によってボケ~ッと「お金、ご自愛下さい」なんて書いたメールを送ってしまい、あとになってひょんな拍子にそれに気づき、真っ青になって「大変失礼致しました!」と陳謝すると、「“お金”最高でした!美奈子先生一流のギャグだと思っていましたよ。関西人なので、笑いがないと生きていけません。ナイスです!」とフォローしてくださった、素敵な方。本当に頭が下がりますし、改めて“関西人”への憧れが深まります…。そう、何を隠そう、私もその方のファンなのです。
そんな、ピアノを、そして音楽を通じての楽しい“両思い”仲間が、これからも広がっていけますように…。と、書いた瞬間、外で鳥が“ピピッ”と鳴いてくれました。ちょっと幸せな昼下がりです。