第469回 憧れの先輩たち
つい先日、子供の頃にNHKの“みんなのうた”で見ていた、『くいいしんぼうのカレンダー』という歌を、久しぶりに聞きました。やはりNHKの“みんなのうた”の、特別枠(?)で流れてきたのです。
(*よろしかったら、You Tubeでどうぞ→http://www.youtube.com/watch?v=kZaLS1KUrYg)
この歌には、睦月、弥生、卯月…と、陰暦の暦にあわせて季節のお菓子が次々に登場します。“つばきもち うぐいすもち 草もち ひしもち あられ さくらもち かしわもち 水ようかん ところてん 宇治金時 おはぎ 月見だんご 栗かのこ くずもち 酒まんじゅう きなこもち あんもち…”おいしそうなお菓子の名前が17も、陰を踏んみながらリズミカルに歌われるのです。中田喜直さん作曲による、どこか懐かしい日本のわらべ歌風のメロディーと相まって、郷愁あふれる雰囲気です。
あらためて聞いてみて、つくづく日本の言葉ってきれいだな、と感じました。暦も美しいのですが、お菓子の名前の愛らしさときたら!聞いていると、思わず片っ端からほお張りたくなってしまいます。(むむ?これは言葉の美しさのせいではないですか?)
この曲が“みんなのうた”に、リアルタイムで放送されていた1975年当時、私はまだ小学生でしたが、歌っているお姉さんの透明感あふれる声がなんともステキで、ほれぼれと聞き入っていました。また、着物姿でひとり、嵯峨野あたりをゆるりと散策し、お茶屋でしっとりと和菓子をいただくお姉さん(歌っている方とは別人だそうです)の姿にも、そしてそのおいしそうな和菓子そのものにも、憧れの熱い視線を送っていたのを覚えています。
「自分も、あのお姉さんのような年頃になったら、あんなふうになれるのかな?」男の子におくてだった反動からか、“お姉さん”を憧れの対象として意識するところがありました。女子高時代の憧れの君は、応援団長だった先輩。ハスキーな声といい、そのへんの軟弱な男よりも男らしい(?)所作といい、すべてがカッコよくて、つい目で追ってしまうのでした。おかげで、ピアノの練習時間が削られて煩わしいはずの放課後の応援練習がまったく苦にならず、それどころか楽しみで楽しみで…!
女子高時代の憧れの君は、もう一方いらっしゃいます。当時、生物の講師をしていらしたK先生です。漆黒の長い髪は、私のクセ毛とは反対に、鏡のように輝くストレート。しかも、お化粧っ気を感じさせないのに、見つめられたらドキドキしてしまうような美人でした。「知性が美しさとなってにじみ出ている」とは、まさにこういうことを言うのです。「K先生は、どんな女優さんよりも白衣が似合うもんね!」と、秘かに思っていたのですが、そのお話の仕方は思いのほか優しくて、K先生が声を荒げることなんて、想像もできませんでした。
大学時代の憧れの対象は、先輩の寮長でした。リーダーシップで皆をまとめる…という力みは微塵もなく、それでいて任務をきちっと誠実にこなし、飄々としたユーモアに知性が垣間見えるところが、大好きでした。こうして振り返ってみると、憧れの君には皆、どこか共通点があるように思います。言うなれば、芯の強さが魅力となっているところ、でしょうか。
学生時代からはや幾とせ、私も年齢的にはいい大人になったものの、当時憧れていたような女性には程遠い…。修行不足です。でも、ありがたいことに、そんな私に今もなお、憧れの先輩、という存在があるのです。大人の生徒さんたちです。
お陰さまで、ステキな大人の生徒さんたちに恵まれています。子育てをしながら、あるいはお仕事を持ちながら、「さらに学びたい!」「もっと知りたい!」という意欲に満ちてチャレンジし続ける姿勢には、教えるといよりも逆に教えられる思いです。音楽については“先輩”的立場かもしれませんが、母になった経験があるわけでも、会社員として職務をこなした経験があるわけでもない私にとって、彼らはまさに、人生の“先輩”なのです。
この頃は、発表会の後に懇親会を持ったり、『大人のための音楽塾』では、講座の後、受講生のみなさんとおしゃべりするティータイムを設けたり、と、“先輩”方とお話する機会が少しずつ増えてきて、とても嬉しく思っています。音楽で人生を充実させたい、という共通のテーマ、そして夢を抱きながら、これからもよいお付き合いを続けていけたら…と、願っています。
(ちなみに、同作品の“くしんぼう”用?、お菓子の画像がいっぱいの動画は、こちらです→http://www.youtube.com/watch?v=JI9ckvTYLBY)