第467回 思えば、たくさんしたもんだ…
また、です。また、やってしまいました。それも、随分ハデに…。
以前、私をよく知る人から「昨夜、美奈子ちゃんがもんどり打って転んだ夢、みた。目が覚めてからも、しばらくドキドキしちゃった~!大丈夫?」と、言われたことがありました。夢の中まで心配をかけるなんて、なんて人騒がせなんでしょう。
そうなんです。私は、自慢にもなりませんが、知る人ぞ知る『よく怪我をする人』なのです。小~中学校時代の怪我大賞は、なんと言っても“突き指”でした。ピアノを弾いていて、しかもけっこう練習熱心だったので、なにせ突き指はもう怖くて怖くて…。クラスで、自習の時間に「じゃぁ、皆でドッジボールしよう!」とか、「今度のお楽しみ会は、バレーボール大会です!」なんて流れになると、もうそれだけでブルーになって、その場から消えてしまいたくなったものです。
「なんでみんな、そんなに球技が好きなの?」
「球技が好きな人たちがいるのはおかしなことじゃないけど、どうしてみんなが皆、全員?」(心のつぶやき)
あんなに皆が「わ~い!やろうやろう!」と喜んでいるのに、どうやって「わたし、ちょっと困るかも…」なんて言い出せましょう?否!言えるわけがありません。
かくして、突き指の恐怖に駆られながら恐るおそるプレー(というと格好いいけど、要はその場で数歩ほど、行ったりきたりしてるだけ)しているものだから、下手な手の出し方をして(まさに“下手”)、かえって突き指を呼ぶ結果になったのでした。
結果、中学を卒業するまでに、左右共に親指以外のすべての指を、突き指してしまいました。
そんな私もやがて大人になり、やっと恐怖の球技から開放される身分になりました。これで安全、一安心。と、思いきや!…知らぬ間に、突き指に代わるキケンがひたひたと迫っていたのです。テントウ、テントウ…それは“転倒”。うう、だれか、この痛みをともないすぎる試練をとめてください!ていうか、だれか、この、どこまでもおバカな話題を引っ張ってしまっている私を、とめてください!!
最初は、アメリカでした(結局、続けるのね)。歩いてもいないのに、ただそこに立っていただけなのに、その場で突然バランスを崩して足をひねるように転び、全治一ヶ月の捻挫を負いました。初めての松葉杖生活 in the U.S.A.…。“両足で不自由なく歩ける”って、普通のことではなく、健康で怪我を負っていない人だけに与えられた、恵まれた権利なんだ、と、実感した日々でした。幸い左足だったので、ペダルを踏むのにさほど支障がなく、それどころか、この機会に左のペダル(弱音ペダル、あるいはソフトペダルともいう)を踏まずして、踏んでいるかのごとくに弱音をコントロールできるようになってしまおうぞ、と、妙な向上心をもって、垂れ下がりそうになる気持ちを支えました。
一年半ほど前の、ある秋の夜更けのこと。各駅停車しか泊まらないその駅の周辺は、駅の近くだというのに足元がよく見えないほどほの暗かったのですが、歩いているとおもむろに踏切が鳴り、遮断機が降り、京成線の車両が今まさに入線しようとしていました。これをのがすと、次の各駅停車はあと20分以上も後です。このとき、あろうことに、踏み切りのカンカン音に混ざって、頭の中に鳴ってしまったのです、あの『ロッキー』のテーマが…。思わず、ハイヒールをはいていることも忘れて思いっきりダッシュした結果は、皆さんお分かりのとおり。まるで時代劇の“斬られ役”が、ヒーローに斬られたあとのように、見事にもんどり打って転び、手足、顔面を強打。肋骨にも軽くダメージをくらいました。嗚呼、なんておバカなんでしょう。
息をすると肋骨に痛みがあったので、後日病院に行ったところ、ちょっとミスターオクレに似たお医者さまに「(レントゲンを見ながら)う~ん、微妙だけど、ヒビの一歩手前って感じかな。でもここね、手術しようがないから、まぁ、おとなしく治るのを待って、様子みて下さいよ」とだけ言われ、薬もだされませんでした。このお医者さまは、とても好きでした。
そして、先週です。小雨降る夜中、右手に傘、左手にアイスクリームを持って、少々お酒が入っていることも忘れ、小走りで帰宅する途中…ズルッと転んで、今回は顎を強打の巻でした。救急病院で、「あ~あ、パックリえぐれてますね~。縫合しないと跡、ひどくなりますよ。縫っちゃいましょうね。」との診断を受けました。このトシになるまで、カラダを“縫う”のだけは免れて生きてきたのに…。でも、こういう場所にピアスをする人もいるのだし、ま、いいか。何事も、経験経験!…と、妙にすっきりと居直って、現在に至っています。
「早く来い来い、抜糸の日…」(心のつぶやき)
よく見ると、頬にもアザができています。「これらを見るたび、気を引き締めなさいよ」という、神さまのありがたい思し召しでしょうか。それにしても、我ながらなんて運動神経が鈍いのでしょう。このペースで怪我を重ねていったら、晩年はナマ傷とアザの耐えない、ファンキーな老女になってしまいそうです。