第461回 吹雪の弘前にて

先週に引き続き、青森を訪れました。今回は、コンサートではなく、コンクールの課題曲についての講座のお仕事です。

私の現住所は、成田空港へは近いのですが、羽田空港までは1時間半ほどかかってしまうという場所。4時に起き、まだ暗い中、最寄駅から5時4分の始発に乗り込みます。最寄りの駅まで歩いて1~2分、という我がマンションの地の利に、改めて感謝したくなります。

青森はここしばらく大荒れの日が続き、二日前には、あまりの強風で飛行機が着陸できなかったほどだったそうです。飛行中、かなり揺れが激しくて、あたたかい飲み物のサービスができないほどだったのですが、なんとか無事着陸。とはいえ、滑走路には一メートルほども(場所によっては、もっと高く…)雪が積もっていますし、そうとうな吹雪です。空港に主催者の方が向かえに来てくださったのですが、会場への道すがら、道路わきの雪の高さにびっくり!

聞くと、除雪などにあてられる市の予算は、すでに例年を大きく上回っているとのこと。飛行機が着陸できず、周辺の空港に不時着することも、珍しくないのだそうです。人々の動きも雪の降り方で大きく変わってしまいますから、農業だけでなく商業をしている方にとっても、雪との戦いには熾烈なものがあるようです。「本当に、雪とは“戦い”です。雪がないところの方は、雪があるというと、きれいなものだと想像してくれるんですけど…。確かに降ったばかりのときはきれいなんですが、いつまでも溶けないまま何週間も道路わきに積まれていると、汚く、見苦しくなってしまうんですよね」

人間のちからではどうにもならないことと向き合い、我慢し、耐える…。北国の人々に、根の強さ、逞しさを感じるのは、彼らには、そんな自然の摂理の中から常に何か大切なことを感じ、学び続けていることから得られる、底力があるからかもしれません。

さて、今回は課題曲20曲ほどについて、演奏しながらお話もしなければいけません。指導のポイントや、演奏上の注意点や練習の仕方、解釈の“ツボ”や陥りやすい誤りについて、などなど、お話したいことは山ほどあるのですが、それをギュッと二時間半ほどにおさめて、要点をダイジェストでまとめなくてはいけません。

そこに作曲家のちょっとしたエピソードや、お国のアクセントと音楽の関係など、是非聞いていただきたい小噺(?)も盛り込むものだから、もう時間が経つのが早いこと早いこと…。結局、間に休憩も挟むことなく、一気に二時間半強が過ぎてしまったのでした。

それでも、先生方は疲れた様子など微塵もみせず(私?私は一向に疲れませんとも。だって、ピアノを弾くのもおしゃべりするのも、大好きなんですもの!)、最後まで笑顔でお付き合いしてくださいました。それどころか、終了後は「勉強になりました。とても面白かったです~!」「こんなにたくさん弾いてくださって、お話も楽しい講座は初めてでした!」「先生のお話、もっともっと聞きたいです。またいらして下さいね」「お酒もご一緒したいわ!」と、口々に感想をおっしゃってくださったのです。もう、嬉しくてうれしくて…。4時起きも睡眠不足も何も、吹っ飛んでしまいました。

元来、面白い、とか、楽しい、と言ってもらうのが何よりも嬉しい性質(たち)です。人が笑ってくれたらこんなに嬉しいことはないけど、子供の頃から、自分が笑うことも好きでした。本来、子供はみんな、そういうものですよね。そういえば、初めて好きになった男の子も、小太りでいつもニコニコして、人を笑わせるのが得意な、家がお漬物やさんをしている子でした。大学時代には友人に「本当に面白いキャラクターよね。“一家に一台”、みたいに、一家にひとり、ほしい感じよ!」と言われ、でれでれと喜んだ記憶があります。

音楽は、楽しむためのツールだと、心底思っています。寝ても覚めても音楽がどっぷり好きな私自身もまた、誰かを楽しませるツール(?)になれたら、どんなに幸せなことでしょう。

2010年01月29日

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