第460回 うつくしき白き八戸
先週の日曜日は、八戸にコンサートのお仕事に行ってきました。その日は朝から快晴で、東京駅へ向かう途中、総武線の本八幡付近からも富士山の姿がくっきりと見えるほどでした。
月に三回、仕事で仙台に行っているんですよ、と話すと、よく皆さんに「え~っ!?タフですね~!」「大変ですね~!仙台って、東京からだと3時間くらいですか?」なんて、驚かれるのですが、実は東京から仙台までは新幹線はやてなら1時間40分。仙台・盛岡間は50分弱。盛岡を過ぎると、そこから八戸までは実は35分ほど…と、東北は意外に近いのです。
折りしも、今年は東北新幹線が八戸からさらに新青森まで開通する年。JR東日本も、誘致キャンペーンやPRを熱心に行なっているようで、首都圏のそこここの駅構内で、青森の美しいパンフレットを頻繁に見かけるようになりました。
太平洋と日本海の両方に面し、陸奥湾や合馬などの魚場にも恵まれている青森県は、ホタテやしじみ、鯖やマグロなど、海の幸には事欠きませんし、りんごの品質は素晴らしいし小麦の食文化もとても豊か。今、ブームの“ご当地”グルメには事欠きません。それに加えて、ねぶたやえんぶりなどの歴史のあるユニークなお祭り、八甲田や十和田湖、世界遺産の白神山地や私の大好きな奥入瀬渓流など、観光資源にも恵まれているところですから、これからますますたくさんの人がその魅力を味わうことになるでしょう。
さて、八戸駅から降り立つと、そこは一面の雪景色。…もともと太平洋側でそれほど雪深くはならない場所なのに、想定外の銀世界で、ブーツではなくパンプスで来てしまったことに後悔しかかりましたが、ロータリーまでの歩道は辛うじて雪がどけてあって一安心。タクシーに乗りこんで、いざ会場へ!
「町は、駅から離れているんですね。」「むがしはほれ~、家に汽車の煙っこがかがってしまってはうまぐないんで、住民がいやがって、駅は家からは離れたとごさつぐれって話になってね~」タクシーの運転手さんの訛りがなんとも心地よく、つい聞き惚れてしまいます。そうこうしているうちに、現場に到着。「あら?ここ、ゆりの木通りっていうんですか?」「んだね~」「わぁ、私の家に一番近い通りも、ゆりのき通りっていうんです」「あれぇ、そうですか~!」
会場ではすでに、主催者の方が万事を整えて待っていてくださいました。慌しく昼食、リハーサルを済ませ、あれよという間に本番の時間になります(いつも感じることですが、この時間って実に速く過ぎてしまいます!)。会場に集まってくださったたくさんのお客さま…。小さなお友達やご両親、ピアノの先生方を前に、お話しながら演奏したり、時にはワルツ(?)を踊ってみせたり、お客様にも踊りに参加していただいたり…。ピアノコンクール関連のコンサートだったので、ちょっとした「良い例」「悪い例」の弾き比べコーナーも設けてみたのですが、子供たちが私の演奏に対して表情豊かに反応してくれるので、ついテンションが上がります。
お客様に足踏みボディーパーカッション(?)で演奏に参加してもらい、コンサートは大いなる盛り上がりの中で終了(と、思いたい)。…「いや~、よかったですよ~!!すごく楽しいコンサートでした!お客さん、とても喜んでましたね~!」主催者の方が労ってくださって、心からほっとしました。さて、ほどなくサイン会に。小さな女の子が「サインお願いします!」と、自分の楽譜や、買ってもらったばかりの音楽ノート…あるいは私のCDを差し出してくれるのですが、その一人ひとりの可愛らしいこと!最後には、「じゃ~ね~!じゃ~ね~!」と、まるで仲良しのお友達とお別れするみたいに、人懐っこい笑顔でいつまでも手を振ってくれました。
外にでると、夕方の時間のわりにはほの明るくて、雪やつららがキラキラしています。「いんや~、昨日まで大荒れでね。30年ぶりの大雪だっていうんだもの。いづもこんなに降らねぇがら、除雪がおっつがねんだね~。津軽の方ならもっとうまいこど、すんだろうけどもね。圧雪(“あっせづ”)になってっからスリップしてっけど、お客さん、安心して。わたしこの道30年のプロなんだもの。職人でいったら名人の域ってやづ。飛ばせっとこしか飛ばさねっし~」帰りのタクシーの運転手さんとも、とても楽しくお話がはずみ、心地よく家路に着きました。
暦は大寒を過ぎたばかり。北国では、まだまだ寒い日が続くことでしょう。でも、冬の一日を、真っ白な雪と、ガラス細工のような美しいつららにおおわれた町で、きらきらと輝く瞳の子供たちと一緒に過ごすことができて、心はぽかぽかと温かな、春のぬくもりに満たされました。来週は墨田区の小学校でのコンサートと、弘前でのコンクール課題曲の講座があります。あ、その前に仙台でのレッスンも…。しっかり食べて、乗りきるぞ!