第455回 終わりは、始まり
『マタイ受難曲』を中心に、クリスマスにふさわしい宗教音楽をじっくり聴きこんでバッハの壮大な世界に浸りつつ、昨日、“大人のための音楽塾~バッハを愉しむ会~”の最終回を終えました。何度聴いても大好きなマタイ受難曲…その素晴らしさに、うかつにも涙が溢れてしまうという、恥ずかしくも情けない場面もあったのですが、皆さんとても熱心に演奏や私の話やに耳を傾けてくださって、和気藹々とした雰囲気の中、無事終えることができました。
受講してくださった大人の生徒さんは皆さんステキな方ばかりでしたし、会場は地元で人気ナンバーワンのイタリアンレストラン!…というシチュエーションもあいまって、私自身毎回わくわくしながら臨んだ全四回の講座でした。準備のために、山のような文献(ちょっとオーバーですが)を読みあさったり、音源を聴いたり、教材を作成するためにあれこれ資料を揃えたり…。こうして書くと、大変なことのように聞こえるかもしれませんが、逆に学生時代よりもよっぽど楽しみながら、ほくほくと準備していたように思います。最近特に、大人になってなお学ぶことが多く、その奥深さや面白さに触れることができる機会があるのは、何より贅沢なことだと感じるようになってきました。
このシリーズと秋に行なったバッハをメインにしたリサイタルの準備のため、今年の春にドイツをひとり旅したのが、随分昔のことのように思い出されます。旅行計画も含めると、10ヶ月以上に及ぶプロジェクト(?)だったのですが、これですべて、一段落です。あ~あ、とうとう終わってしまった。折りしも、今年一番の寒波がやってきて、風もいっそう冷たく感じるこの頃…。まさに、ぽっかり穴のあいたようになっているココロに寒さがしみて、“泣きっ面に蜂”ならぬ、“穴開いた心に北風”って感じです。
ここはひとつ、外に出てクリスマスのイルミネーションに癒されようとしてみるも、発光ダイオードの光は、エコなだけにどこか淋しげで、なんとなしに冷たく感じてしまうのは私だけでしょうか。そういえば、エコエコ、と言われながらも、イルミネーション自体、このところ全体的に増加傾向にあるのは、不思議です。(クリスマスシーズンだからといって、商店街には20年前からこんなに明かりがチカチカしていましたっけ?)
エコロジストには怒られてしまうかもしれないけれど、やはり蛍光灯系よりも白熱灯の灯りが好きです。でも、もっと好きなのはキャンドル(蝋燭)の灯り。不規則なゆらぎを見ていると、リラックスできるし、何より、ほんわかとしたあたたかさを感じるのです。思えば、ピアノの音の響きも、揺らぎ(音の“うなり”とも表現されます)で出来ていて、そのへんは電子音と決定的に違うところのひとつです。私が電子音を受け付けられないのは、そのあたりが理由なのかもしれません。
星のまたたきも、ゆらいでいます。暖炉の火も、昔の石油ストーブの炎も、ゆらいでいました。人間は、ゆらぐものに心許せる何かを感じるのものなのでしょうか。
さて、私の心も今、ゆらいでいます。今日を休肝日にすべきか否かで。でも、せっかく生徒さんから新婚旅行のお土産に頂いた美味しそうな白ワインが、野菜室でスタンバっていることだし…。冷蔵庫に熟成させている、塩豚のかたまり肉をザウアークラウト(酢漬けキャベツ)と煮込んでシュークルートにしたら、たいそうその白ワインに合うに違いない。そうしたらたちまち心が満たされて、すきま風なんぞどこかにすっ飛んでいってしまうことでしょう。…と、今これを書きながら、休肝日は明日にしよう、と、潔く決断しました。
ところで、どうでもいい私事で恐縮なのですが、昨年の今頃に比べて体重が五キロ、増えています。その、バージョンアップした天然防寒着(ナチュラル・ヒートテック=脂肪)のおかげで、確実に体感温度が違っていて、この冬は随分いつもの年より温かく感じます(靴下をはかなくても眠れるし!)。冷え症の身には、なんともありがたいことです。究極のエコロジーは、空調やストーブの設定温度を下げてもひるまない、充分な脂肪を体に蓄えることなのかもしれません。そういえば、寒さ厳しい北極圏やペルーの高山地方の人たちは、脂肪を大切に“育てて”いるではありませんか(ペルーで、人々にもっとも怖れられている妖怪は“ピシュタコ”と言って、人の脂肪を吸い取ってしまう、世にも恐ろしいオバケなのだとか…)。エコというのなら、脂肪をむやみに怖がったり嫌がっていては、バチが当たるというものです。
折りしも、いよいよ年末年始。一年が終わるということは、新たな一年が始まるということ。私も、今回の音楽塾が終わってしまったといってつべこべ言ってないで、来る目標と夢に向かって、まずは心身ともに、エネルギーを蓄えなければ…。メタボとかコレステロールとか、実体のない数字を気にしている場合ではありません!…と、気を引き締めつつ冷蔵庫からいそいそと塩豚を取り出し、お料理の準備に入った私です。