第441回 見かけにとらわれないで…

10月と11月に仙台と東京で行なわれるリサイタルシリーズ『SYMPOSION Ⅳ』のポスター、フライヤー(チラシ)が届きました。22年前に初めてのリサイタルをした時と同じように、今もこれらを手にすると、「ああ、いよいよだ」と、ドキドキとワクワク、不安とやる気、などが複雑に入り混じった、なんともくすぐったいような感覚が体を走ります。

そんな中、昨日は千葉市内のとある博物館の講堂で、トークコンサートがありました。『音楽と野山の生きものたち』と題して、17世紀のクープランやラモーといった作曲家による可愛らしい作品――葦、恋のうぐいす、百合の花ひらく、かっこう、など――を、トークを交えて“チェンバロの音”で聴いていただきました。西洋と日本での、虫の声のとらえ方の違いについてや、葦、蛍といったものを詠んだ平安時代の和歌を紹介したり…と、色々なお話しました。本物のチェンバロは勿論、講堂にはピアノもなかったので、自前の電子ピアノを持参し、機能についている“チェンバロの音”の設定で演奏したのです。

昨日は、夏休みとはいえ、平日の二時からという条件にも関わらず、会場には思いのほかたくさんのお客様が来てくださいました。また、元千葉県知事の堂本さんも駆けつけてくださって、お昼ごはんをご一緒させていただき、オープニングで素敵なスピーチをしてくださいました。数日前に千葉の某ケーブルテレビ局から、私のトークコンサートの模様を放映したい、というお話を頂いていて、本番中は終始テレビカメラがまわっていたし、いつもと違ってお客様に対して正面を向いて弾かなければならないし(ピアノの場合は横向きなのです)…。慣れないことに、顔は笑っていても心はきゅるる~っ、と緊張していたのですが、とても楽しい時間を過ごすことができました。持っていったCDもすべて売れ切れて、身も心も軽くなって家路につきました。

こういうイベントには何かとハプニングがつきもので、昨日もひやりとするようなことがいろいろとあるにはあったのですが、それでも皆さんに喜んでいただけたのは、たくさんの方のご協力あってこそだと思っています。博物館の方、スタッフやお客さま…周りの方々への感謝で満たされる時、心の底から生きていてよかった、音楽をやっていてよかった、と、しみじみ幸せな気持ちになります。皆さま、本当にありがとうございました。

来週は新潟でのセミナーで、特別レッスンや講座をさせていただく予定になっています。講座では、オーストリアの音楽芸術とカフェ文化について、演奏を交えつつお話ししようかなと考えています。また、9月からは、昨年、手探りしながらも12回のシリーズで行なって、好評を頂いた『大人のための音楽塾』の第二弾、“J.S.バッハを愉しむ”も、スタートします。告知後一週間で、早くもたくさんのお申し込みを頂いて、身の引き締まる思いです。

ところで…「いつも、積極的にいろんなことに取り組んでいるわよね」「行動派ね」と、言われることが少なくないのですが、本人はまったくそんな意識はないのです。確かに私の行動のある部分を、うわべだけを見ると、なんでもドンと来い!とばかりに(?)、ぽんぽんコトをこなしているように見えるのかもしれませんが、実際はさにあらず。それどころか、のんびりと効率の悪い行動しかとれなくて、なんてマイペースで不器用な人生なんだろう、と、我ながら可笑しくなってしまう方なのです。

実は、一つのことを決めるにも、「よし、やってみよう」「やっぱり、やめておこう」を、無限にくり返し、優柔不断のうずしおに巻き込まれて、右にも左にも動けなり、判断がつかなくなって悩み続け…ということばかりなのです。その末になんとか決断しても、やっぱりやめておいた方がよかったかも、と、後ろ向きに後悔することも、あります。小さな頃からどちらかというと臆病で、いわゆる“石橋を叩いても渡らない”ような子供でした。決断も反応も遅く、父からは半分呆れて、半分は愛情を込めて(多分…?)、「蛍光灯(=なかなか反応しない…)!」と、呼ばれていたほどです。だから、「積極的」とか「行動派」とか言われると、現実とのあまりのギャップに、戸惑ったりするのです。

でも、どんなふうに見られているのか、なんて、実はそれほど気にしていません。だって、もしかけ離れた印象を持たれたとしても、付き合いが深まればいずれ分かってもらえることですもの。最近は、子供たちと接する時も、なるべく彼らの性格を分析したり、児童心理学的な観点からの形に当てはめて考えたりしないで、対等な人間同士のコミュニケーションによって、信頼を深めていくことを心がけています。目標は、子供たちにとって「自分を本気で励ましてくれる」「自分に惜しみなく元気をくれる」、そして「一緒になって、心から楽しんでくれる」存在になること。だから、今日のYちゃんのように、レッスンが終わって「あ~!楽しかった~!」と言ってもらえると、すごく嬉しくなって、顔がとろとろとほころんでしまうのです。

人は見かけによらぬもの。例えば、誰かさんみたいに、お酒が大好きと公言し、どんなに飲んでも顔が赤くならないからといって、お酒が強いとは限らないのであります。

…おっとっと、話が大きくそれてしまいました。つまり、見かけがすべてでは、ないのです。偏った見かたに陥らず、人とのコミュニケーションを大切に育み、楽しみながら深められる人になりたいものです。昨日、多くの方々にお会いして、改めてそんな思いを新たにしました。

(*来週の『ピアノストのひとり言』は、新潟でのセミナー中につきお休みいたします。次回の更新は9月4日深夜の予定です。どうぞよろしくお付き合いくださいませ!)

2009年08月21日

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