第428回 いってきます!
冒頭からいきなり恐縮なのですが、来週のこのエッセイの更新はドイツ旅行中につき、お休みいたします。無事に帰国した暁には、フィンランドやフランスのときのように、何回かにわたって旅行記をご紹介したいなぁ、と思っております。
さて、「ドイツに行きます」というと、周りのかたからよく「あら、珍しい」と、言われます。私が、ビールが美味しくて、グルメなイメージがない国に行くのは意外なことだ、というのです。確かに、どちらかというとワイン党で、普段ビールはほとんど頂かないのは事実ですが、食べることに関しては、せっかく美味しい食材は美味しく頂きたい、と願ってやまない単なる食いしん坊なだけで、べつにグルメでも何でもありません。
確かに、ドイツというと、食べ物はソーセージとジャガイモばかり、というイメージがなきにしもあらず…な国です。ところが、パンは伝統的・定番的なものだけでも250を越える種類があるし、ジャガイモの品種はなんと156種類も!(しかも、女の人の名前がついていたりするそうな…)。ミネラルウォーターに至っては国内のものだけで350種類もあるという事実からもわかるように、決して口にするものに対して興味がない国、というわけではないのです。
それどころか、パン一つをとっても、こだわっているところは伝統的にイースト菌も使わず、時間をかけて小麦と水を自然発酵させた“天然酵母”菌でじっくりと焼き上げるのが主流であったり、オーガニックなものや安全性についての厳しさには、日本を上回るものがあるかもしれないほどだといいます。第一、いくら水道水を一般的には飲まないからと言って、そこまで“ご当地ミネラルウォーター”の種類があるなんて、口に入れるものにこだわらない人々の国だとは思えません。
一方で、ドイツの人たちは規律正しく、厳格で勤勉、というイメージもあります。それはほぼ、ドイツ人を言いえているとも思われますが、実際にはきちんと長期バカンス(フランス人たちほどではないにしても…)はとっているし、ミュンヘンのビアガーデンときたら、もう大変!人口は東京都の十分の一ほどの都市なのに、40を越えるビアガーデンがあるそうです。しかもその中には収容人数が4500人、という、壮大なスケールをもつものも含まれ、シーズンになると毎日のように空席がほとんどないほどの人で大盛況になる、というのです。彼らは、オンとオフの切り替えが上手、ということなのでしょうか。
また、ドイツというと車、カメラ、刃物、ピアノなどに名品が多く、“ものづくり”のマイスターたちが支えている国、という印象もあります。聞くところによると、キッチン用品のクオリティーや品揃えにも素晴らしいものがあり、フランクフルトにはビルが丸ごとキッチン用品のデパートのようになっている、まるでキッチン用品のアミューズメントパークのような(?)お店があって、好きな人は一日いても飽きないほどなのだそうです。掃除も料理も合理的にこなすドイツ人のこと、きっと、よく考え抜かれ、工夫されているすぐれモノがたくさんあることでしょう。う~ん、想像するだけでも、なんとも楽しいことです。つまりそこは、私にとってはかなりキケンなお店ということになります。
いつも海外に出かけるときは、かなり周到にホテルや移動手段などを手配していくのですが、なんだか今回は準備に情熱がわかなくて、ぼ~っと過ごしてしまいました。一度、ホテルを予約するにあたって、周辺の様子を見てみようと航空写真を出してしまったら、建物の屋根、並木や川の色など、あまりに様子が分かりすぎてしまって(!?)、あわててそのサイトを閉じてしまいました。行く前に当地の様子を知りすぎてしまうのも、ちょっともったいないような気がします。
母と初めて海外旅行で訪れたのが、ドイツでした。母はちょっとした村の小さな教会のしつらえや、見事に飾られたホテルのクリスマスツリーにすら感激して、「すてき!すごい!」を連発していたことを、よく覚えています。その後に訪れたフランスでは、パリのカルティエ・ラタンのブーランジュリー(パン屋)で常連さんにまみれてバケットサンドを買って、その場で食べながら歩いたこと、その美味しかったことなど、今でもしばしば話題に上がります。まったく想像がつかなかったヨーロッパの風景や食べ物に出会って、どんなに驚いたか、「カルチャーショック、とはこういうことなんだ…って、すごく実感したのよね」と、母は今でも興奮気味に語ります。
旅の楽しみは、効率よく観光してまわることよりも、そんなふうに鮮烈な驚きや、純粋な感激を体験することにたくさん潜んでいるように思います。今回は、幼少の頃からその音楽や文学に親しみ、実際に何度も訪れたことがあって少々知識を持っている国なだけに、あまり細かく旅の情報収集をしたり、タイムスケジュールを決めたりしないで、旅の気分をのんびり味わいたい…という気持ちになっているのかもしれません。
新型インフルエンザにも気をつけなくてはならないところではありますが、日本よりも早く症例が認められ、感染者の多いドイツでも、ほとんどマスクをしている人の姿は見られないとか。ドイツはまた、医療の本場でもありますから、大丈夫大丈夫、と、みなさん落ち着いて対処しているのでしょうか。ともあれ、気をつけていってまいります!