第409回 天職?天趣?

世の中の忙しさを尻目に、相変わらずのんびり息を吸っている私ですが、先日は久しぶりにトークライブというイベントがありました。お題は『バッハの教会音楽~耳で聞くクリスマスの風景~』。ピアノがない会場だったので、わたしはもっぱらおしゃべり役です。トークライブは一年以上前にやはり地元で行なった『ウィーンのカフェ文化』以来でしたが、準備も本番もとても楽しくて、弾くこと同様、音楽についてお話しすることも私にとって大切な“天職”なのかも…なんて、都合のいいことを考えてしまいました。

バッハ、というのは、もちろんJ.S.バッハ。通称“大バッハ”のことです。教会音楽のお話だけではなく、バッハの生まれた時代背景やルター派などのキリスト教の動きについて、またバロック音楽の特徴やらバッハの生涯や人となり、オペラとオラトリオの違いや、世俗カンタータと教会カンタータについて…などなど、周辺のお話を色々盛り込みつつ、進めていきました。実際に音源を聴いていただきながら、とても90分では語りつくせない内容をどうやって絞り込むか、が課題でした。専門書やら、今まであまり頻繁に聴くことがなかった教会音楽のCDをたくさん買い込んでは、毎日のようにノートをとって、エッセンス抽出(?)につとめました。こういうことをきっかけに、知らなかったことに気づいたり、改めて整理できたりするので、本当によい勉強になります。

そんなふうに内容をつめているうちに、ふと「そうだ。お客様に、耳だけでなく舌でもドイツのクリスマスを味わっていただこう!」と思いつき、ドレスデン発祥のクリスマスの伝統菓子“シュトレン”を焼いて、お出しすることにしました。これは、待降節に食べる、イースト菌を使ってタネ生地を作り、ドライフルーツを洋酒に漬けたものやナッツなどを混ぜ込んで焼くかなり保存のきく独特の重いパン(ケーキというには重すぎる…)。焼きあがったらたっぷりとバターを塗り、粉砂糖を何重にもかけて仕上げるのですが、そのあたりは食べやすいように本国より少し控えめにして、600グラムほどのものを二つ、作りました。お客様のなかに、ドイツに住んでいらして、本場のシュトレンを食べたことがある方がいらしたのですが、「ドイツでたべたのよりもずっと美味しい!」と言っていただけて、天にものぼる気持ちでした。

このトークライブのために、お店の方が“セバスチャン”という、バッハの好きだったコーヒーのリキュールを使った限定カクテルを提供してくださって、もう感激…。こんな時は、本来なら終わった後、いつもより一杯だけ(ホント?)多くお酒を頂いて、いい気分で帰るのですが、この日は少し制御して帰りました。理由は…翌日、朝早くから“仕込み”があるから!

実はクリスマスイブ24日に、うちでパーティーをすることになっていたのです。この日はいつもどおりの生徒さんのレッスンがあるので、前日からのタイムテーブルを作って計画を練ることにしました(これがまた楽しいのだ)。

クリスマス近くは皆さん、チキンや鴨のようなものは召し上がる機会があるだろうと思ったのでそれは外して、また、その日のメンバーがお好きな、ワインや日本酒によく合いそうなメニューとレシピを考えました。下がその内容です。

1.フォアグラのムース アンディーブとともに

2.シチリア風オレンジのサラダ

3.豆腐の味噌漬けと水菜のサラダ風

4.キャベツとブロッコリーのバスク風プディング

5.シェファーズパイ (美奈子アレンジ)

6.北海道産帆立のタイ風イエローカレー

7.もち豚フィレ肉のアドボ(スペイン風香味野菜漬け)

8.ハンガリー風牛肉のパプリカ煮込み

9.全粒紛入りの自家製パン

10.三種のフロマージュ(イタリアの“ゴルゴンゾーラ”、フランスの“カマンベール”、スペインの羊のチーズ“マンチェゴ”)盛り合わせ。フィグ(いちじく)のジャム添え

11.かぼちゃのソルベ (美奈子流シークレットレシピで…)

12.自家製シュトレン(意外にお酒に合います。洋酒に漬けたドライフルーツがたっぷり入っているのですものね。)

13.cafe or tea

ちらっとお料理の説明です。1.のフォアグラのムースは、ぺルノーというアニス風味のリキュールの香草の香りとレモン汁の酸味で、フォアグラのパテのちょっと強い動物臭を和らげ、ホイップした生クリームと和えてアンディーブにのせてみました。乾杯のスパークリングワインとの相性を考えてのスターターです。

5.のシェファーズパイは、挽き肉のソースの上に、ふんわりしたマッシュポテトをのせてオーブンで焼く、イギリスのお料理ですが、私のアレンジは聞いてびっくり!玉ねぎの代わりに切り干し大根を使うのです(戻し汁も)。大根の違和感が感じられないのは、白ワインを使うから。ソースの隠し味に白味噌を仕込むのもポイント(大根とリンクします)です。すると、見た目は違えど、ちょっと“肉じゃが”みたいな雰囲気の味わいになるので、ワインだけでなく日本酒にもばっちり合ってしまうというわけです。

11.のかぼちゃのソルベは、“冬至は過ぎてしまったけど、お正月近し!”のイメージで(きれいな赤みの黄色が、きんとんを髣髴とさせるかな、と…)。なんと砂糖も卵も生クリームも一切つかわないのに、ちゃんとソルベ。ちゃんと甘い…と、いうところがポイントです。甘く熟したカボチャを、さらに甘みを閉じ込めるよう、煮ないで蒸しあげ、加糖していない甘酒と混ぜてなめらかになるように漉します。すると、上品な、でもきちんとした甘みがじみじみ味わえて、口当たりも優しくなりました。甘酒の中の米麹の風味はほんのかすかにしか感じられない(誰も甘酒が入っているとは気づきませんでした)のですが、それが微妙にお酒にマッチして、お酒の間のお口直しにもちょうどいい感じ!…と、大好評でした。

以上のメニュー、それぞれのお皿4~5人分ほどを、23日のトークライブの日と、24日に通常のレッスン日の合い間を縫って用意したので、ちょっとテンパってしまいましたが、8名のゲストの方々は実によく食べ、よく飲んでくださって、気がついたらお皿の上はすべてきれいに平らげられていました。これだからお食事会って好きなのです。「こんなにたくさんの準備、大変だったでしょう?」と、労ってくださるのですが、いやいや、正直にただもう楽しいばかりで、これはきっと私の天職、ならぬ“天趣(趣味)”なのだという気がしています。

あら、もっとお話したかったのだけど、随分長くなってしまいました。皆様とも、いつか食卓をご一緒できるときが来ると嬉しいのですが…。どうぞよいお年を!!

(下の写真は、自作のシュトレンです。上から撮影。約600グラム…30センチほどのお皿からはみでています…^^;)


shutlen.jpg

2008年12月25日

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