第404回 野菜とお肉とベートーヴェン
危険な季節です。食べ物が美味しいから、ではありません(私としては、食べ物が美味しくなかったら、そちらの方がずっと危険!)。町に素敵なものが溢れてくるからです。
ワインの新酒、クリスマスのディスプレイ…。どういうわけだか毎年この時期がくると、着るもの(セーターもジャケットも…)や履くもの(特にブーツの誘惑に弱い)や巻くもの(巻きもの好きなのです。ストール、スカーフ、マフラー…)、そして下げるもの(バック!)が、欲しくなってしまって困るのです。
数年前から、靴とバックは今まで使っていたものがだめになるか、使えなくならない限り、新調しないで数を増やさないようにしています。今思えば、学生だったからとはいえ、ハンガリーにいた頃は、スーツケース以外、バックは大きなものと小さめのもの、一つずつしか持っていなかったのが不思議です。なければなkでなんとかなるものなのに、どうもいけません。
大きい方は、たっぷりの楽譜が入るショルダーバックでした。日本人が外国でいい物を持って歩くのはよくない、と言われてもいましたから、合成皮革の安物を愛用していました。茶色で、特になんの特徴もないバックでしたが、いつもぽんぽこりんに膨らむほどのものを入れても、3年以上壊れずにもってくれました。
バックは毎日ぽんぽこりんになるのは、ベートーヴェンの分厚い楽譜が入っているからだけでなく、リスト音楽院の行き帰りの途中で食料品を買うからなのでした。向こうでは当時、プラスチックの袋をくれませんでしたから、袋は持参、ということになります。果物も茶色い紙袋にいれてくれるだけだし、お肉もそうです。卵も、紙でできた容器を持っていって、必要な個数を買い求めるか、そうでなければやはりたよりない紙袋にそのまま入れてもらうことになります。買い物袋は必須アイテムでした。
スーパーマーケットに行けば、プラスチックのトレイにのったお肉もありましたが、その場合「肉○○グラム:○○フォリント+トレイ代○○フォリント」という具合に、トレイの分のお金が加算され、しかもその金額が表記されていました。お肉屋さんにいけば、必要な量だけをその場でカットしてくれたり、挽いてくれたりするのに、わざわざ高いトレイ代を払って、何時間も前にスライスした肉を買い求める人は少なかったように思います。おかげで紙以外のゴミ(不燃ゴミ)の少なかったこと!
今、世の中でエコだのウォームビズだのといわれ始めていますが、そのエコのために、といってバックや買い物かごを売ろうというメーカーも続出したり、ウォームビズ用の新素材が発売になったり、なかなか相手も考えるな、と感心します。
電気の節約のため、ヨーロッパではマンションなどの共有スペースの電灯は、センサー(あるいいは手動でスイッチを入れて)で点灯するタイプがほとんどでした。そしてそれは、3分もしないうちに自動的に消えるのです。冬場のヒーターも、電気ではなくお湯(またはオイル?)を循環させて温めるタイプのものでした。部屋だけでなく、廊下や洗面所、トイレまでみんな同じ温度に温まって、とても快適でした。
水は安いものではないので、彼らはほとんど、日本のように水を流しながらのすすぎはしていませんでした。洗剤をつけて洗った食器を、“すすぎ用”の水をためてある、別のシンク(ドイツなどでは、家庭でもシンクが二つ並んでいるタイプのものが見られました)か、洗いおけのようなものにくぐらせるだけなのです。
清潔好きな日本人は「それでは、洗剤がすすぎ用の水に入ってしまうじゃない?ちゃんとすすぎ落とさなくていいの?体に悪影響があるのでは?」とつっ込みたくなるところですが、そういう使い方をするのを前提に作られているのだから大丈夫大丈夫、と、彼らは屈託ありません。やれ除菌だなんだと神経質になってしまう日本とは違って、洗剤の洗浄成分もそれほど強くないのだとか。洗剤の成分が強くないぶんだけ、水も汚染も抑えることができるし、余計な水を使わなくてもすむから水道代の節約にもなって、何も悪いことないでしょう?…というのが彼らの言い分です。う~む。ちょっと分かるけど、よくわからない…?
でも、この頃は余計なことや余計なものに、ちょっと慣れすぎてしまっているのかな…と、反省したくなってきました。本当はブーツを新調したかったんだけど、この冬は我慢しようかしら。でも、こんなことをみんなで考えてしまったら、消費が落ち込んでしまいそうだけど、大丈夫かな。“地球に優しく、日本経済に厳しく”になってしまうのも、よくない気が…。いけないいけない、この手の経済の話は、とても苦手なのです。
折りしも今日はボージョレの解禁日!ハンガリーの新酒の季節は、みんな酒屋さんに空き瓶やポリタンクのような容器を持参して、量り売りしてもらっていたっけ…。ムズカシイこと言って格好をつけようとしないで、今夜は美味しいお酒を頂いておとなしく寝ることにしようっと。