第395回 音楽塾を終えて

4月から月二回のペースで行なってきた『大人のための音楽塾』は、先日無事に全12回を終えることができました。

第一回目の『J.S.バッハの世界』に始まって、『天才モーツァルトとその周辺』『ベートーヴェンの作品と人間像』といった古典的な部分から、『世紀末のウィーンとマーラー』『ラヴェル~その精緻な官能~』『ロシアからソビエト連邦へ』『マジャール民族のアイデンティティ』のような近・現代の音楽、そして『作曲家の自作自演』を聴くという企画まで、毎回我ながら頑張って趣向を凝らし、ずいぶん欲張った(?)講義になりました。

もともと弾くこととピアノの実技を教えることが本業なので、こういった講座をシリーズで行なう、というのは初めての経験です。正味一時間半ほどの講義とはいえ、準備は毎回数時間~数日(?)に及び、睡眠不足にもなりましたが、それ以上に充実した時間を過ごすことが出来たように思います。

作品をただ弾くのでもただ聴くのでもなく、作曲家の生きた国や社会的な時代背景、またその人物像や交友関係などとの絡みも交えてお話をすすめたり、一つの作品を違った演奏で聞き比べてみたり…。「こんな講座だったら、自分が受けてみたい!」と思うようなものを…、というテーマと目標をもって組み立てていきました。

そして先日の最終回は、『終了発表会』と題して、7人の受講生の皆さん一人ひとりに今までの講義の中でもっとも印象に残った作品について語っていただいたり、皆さんのお気に入りの音源(演奏)をお持ちいただいて、プロモーション付きで発表していただきました。

ご自身が初めて買ったクラシックのCDをご紹介くださった方、「私にとって、故郷の風景が思い浮かぶ作品です」とおっしゃる作品を聞かせてくださった方、初めて足を運んだオペラを選んでくださった方…。皆さんのお話や、皆さんにとっての大切な作品を聴きながら、やはり音楽って…そして、人間って素敵だな、という思いで胸がいっぱいになりました。

コンサートやレッスンだけでなく、もっと違ったアングルから音楽を“学ぶ”楽しみをお伝えできないだろうか。クラシックの良さ、面白さを、もっと実感していただけるような音楽についての教養講座、音楽塾のようなものを、定期的に開いてみたい。それも、できれば、少人数で和気藹々、そしてゆったりと、大人の豊かな時間が過ごせるような空間で、講義のあとにはお茶を頂きながら、その日の講義や音楽の話に自然に花が咲くような雰囲気にしたい…。そんな欲望はずいぶん前からあったのですが、場所的な問題、予算の問題などをなかなかクリアすることが出来ず、実現させることは半ば諦めていたのでした。

会場をほとんど無償で提供してくださった、会場のお店のオーナーSさんのご好意がなかったら、このようなわがままな私の要望を満たす音楽塾はとても実現できませんでした。Sさんは私の意向に賛同して、週に唯一の貴重な定休日を快く開放してくださったうえ、毎回講義が終わった後のティータイムにはコーヒーを出してくださって、音楽塾のリラックスしたムード作りにお心をくだいてくださいました。恐縮しながらお礼を申し上げたら、「いえいえ、僕自身がすごく楽しかったんですよ…」。確かに、Sさんは毎回熱心にメモを取りながら、楽しそうに講座を聴いて下さっていました。「クラシックがこんなに楽しめるものだとは思っていませんでした。もっともっと、いろんなものを聴いてみたいですね」。Sさんには本当に感謝あるのみです。ありがとうございました。

クラシックに限らず音楽が大好きなH氏は、無遅刻・無欠席の皆勤賞でした。「いや~、実に素晴らしい内容の講座ですね。日本でも珍しいんじゃないかな?」という、もったいないようなお褒めの言葉に、単細胞な私はどんなに励まされたことか。そのほか、親子(母娘)でご参加くださった、つい見とれてしまうようなお二人、少女のようにはにかみながらシューマンの『子供の情景』をご紹介くださった60代の女性の方や、お忙しい中時間を工面してご参加くださった、ヴァイオリンを教えていらっしゃるTさん…。いつの間にかティータイムのときのお茶菓子を、誰からともなく持参してくださるようにもなって、本当にいい雰囲気でした。「こんな素敵なグループに参加できて、幸せだったわ」「これでもうおしまいなんて、名残惜しい…」「なんだかさびしいわねぇ」私はというと、そんなふうにおっしゃって頂いて、嬉しいやら寂しいやら…。

人と接すること以上に得られる“学び”はないのではないか、と改めて思います。それにしても、こんなに素敵な方々とお知り合いになれたのは、神さまが下さったご褒美?…いえいえ、こんなすごいご褒美をいただけるようなことは、何一つしていませんもの、それは違います。きっと、あまりに私が未熟で、まだまだ学ぶべきことがたくさんあるので、神さまがこのような出会いを下さったのだと思います。

レコーディングも音楽塾も終わり、いつの間にか外もすっかり秋めいてきて、今、めずらしく心にちょっとすきま風が…。でも、そのすきまをぬうようにして(?)、「きっとまた新しい出会いがある!」と、ちゃっかり夢みている私です。

2008年09月19日

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