第372回 小さな本と小さなアイス屋さん
美味しいものには目がなくて、珍しいものを見つけては取り寄せたり試食するのが大好きです。こんなふうに春めいてくるとそわそわ落ち着かなくなるのは、桜の便りが気になるから…というのもありますが、実をいうと“花より団子”なのかもしれません。だって、この季節になると和菓子もアイスやソフトクリームのたぐいも、ますます美味しく感じるんですもの。
本はもっぱら図書館を利用して乱読するのを好んでいるのですが、今日はある本に一目惚れしてつい買って帰ってしまいました。あまりにも装丁が可愛らしくて、店頭でふと手にとったが最後。二度と書棚に戻すことができなくなってしまったのです。その名も『お茶と和菓子の12ヶ月』。和菓子の入った箱を連想させるような細い水引きをあしらった表紙…。
お茶も和菓子もこのところとても気になっていたので、すぐに目に留まりました。パリの三ツ星レストランでフランス料理とお菓子の修業をされ、現在は都内でフランス料理・お茶席の料理を中心とした料理教室を主宰されているという女性の著書です。
美しくも愛らしい和菓子の写真、一ヶ月ごとに挿入されている茶道や日本茶についてのイラスト入りの“お稽古”コラム、そして季節ごとの和洋折衷のお菓子のレシピ…。お値段の割りには(!?)小さく、100ページを辛うじて超える程度のボリュームの本ではありますが、バックに入れたとたんに幸せがこみ上げてくるのを感じてしまいました。やっぱり、いくつになっても元・女の子!
もともと美味しいものと可愛いもの、夢のある物語や美しい写真が大好きで、そういえば高校時代にお小遣いをはたいて買った音楽関係以外のハードカバーの本は、ほとんどが『赤毛のアンのお料理ノート』『不思議の国のアリス/アリスのティーパーティー』など、物語と写真やイラスト、そして美味しそうなレシピがコラボレーションされたものでした。
実は、最近の“恋”がもう一つ(春だわ~)。とても美味しいアイスに出会ってしまったのです。高知県安芸郡のとある有限会社の工場で作られている、その名も『~しおあじほのかに~うみのバニラ』。室戸の海洋深層水を使い、最中種にはちゃんともち米粉が使用されている、素敵なシェル形をしたアイスクリーム最中です。
生クリームというよりもあっさりとした自然なミルクの風味が豊かで、塩のせいか後味もさっぱり。最近主流のリッチなクリーム系バニラとは違って、どこか昔懐かしい“アイスクリン”のような雰囲気です(そういえば、アイスクリンって高知の名産品でしたっけ?)。パッケージは深い海…あるいはカプリの青の洞窟をも髣髴とさせる美しいブルーのグラデーションカラーで、裏には『小さなアイス屋だからできること』という見出しの説明文が書かれています。この、お菓子の説明書き(能書き?)を読むのが、実は小さな頃から大好きなのです。ほとんど趣味といってもいいくらい…。
どんな製造者なのだろう…。ホームページを探して記事を読んでみたら、こちらでは海洋深層水だけでなく卵も生乳も地元安芸郡産にこだわり、コーンや最中も無着色・無香料とのこと。キャッチフレーズは「安心をテーマに、どこにもないアイスづくり」だそうな。ふむふむ、なるほど…。
あるフランス料理研究家の方は著書の中で、留学中フランス人に「なぜ異国の料理をわざわざ料理学校なんかにいって習うの?料理ならお母さんに習えばいいのに」とよく言われたと書いていました。スローフード(近くの産地の食品を使って、自分たちの食べる料理を手作りすること)が常識の彼ららしい発想です。
“和”という一文字だけでは語りつくせない、日本という国の文化にもっと興味を持って、自分の周囲のコミュニティーを大切にしながら生きていくことの必要性・大切さをますます感じるきっかけになった、二つの小さな“お気に入り”との出会いでした。