第363回 ビバ・ピアノ! ビバ・スマイル!

昨日は、待ちに待った生徒さんの発表会でした。

自分が弾くよりも緊張する、という先生もいらっしゃるようですが、私にとってはその反対でひたすら楽しみな一日です。だって、考えてもみてください。普段から苦楽を共にしながら成長を誓い合っている(?)、大事な仲間の晴れ舞台なのですもの。しかも、皆さんの舞台姿の、なんと堂々と美しく、惚れ惚れすることか!親心、というのはあまりにもおこがましいですが、まさに先生冥利に尽きるというものです。

会場のティアラこうとうは、江東区の公会堂ですが数々のトレンディードラマやバラエティー番組などのピアノコンサートシーンでロケにも使われているホールです。もともと綺麗な会場で、稼働率はほぼ常時100パーセント。人気のあるところでしたが、昨年リニューアルしてさらにぴかぴかになりました。でも、ピアノ弾きにとって何より変わったところは、スタインウェイのフルコンサートピアノが入っていたのが、やはりドイツの名器、ベッヒシュタインのセミコンサートグランドになったことです。

午前中、仙台からの生徒さんの最後の仕上げのレッスンを自宅で行なってから、皆さんにお渡しする記念品やら当日用のプログラム、お茶に筆記用具に、録音用ディスク、アナウンス用の原稿…。落ち度のないように前日から何度も確認した荷物を担いで、いざ会場へ。朝のうち空を覆っていた雲はすっかり立ち退きました。かわりにあらわれた太陽の光とともに、辺りにはひんやりとした冬の空気が満ちて、自然に気持ちが引き締まります。

会場に着くと、すでに調律の佐々木さんがスタンバイしてくださっていました。にこやかに挨拶を交わしてまずはホッとします。独りで会場入りするピアノ弾き(昨日は自分のコンサートではありませんでしたが…)にとって、一緒に楽器の音をつくっていく同志のような調律の方の存在はなんとも心強いものなのです。新しく、やや不安定な状態で楽器庫にしまわれていたベッヒシュタインが、時間と共に少しずつホールの気温と湿度に慣れ、温まりながらトーンを整えてもらっている様子に、改めてピアノという楽器への愛しさがつのります。この、黒くて大きくて、他のどんな楽器よりたくさんのオリジナルの名曲とともに何世紀も人々とともに人々に親しまれてきたピアノという相棒と、残りの時間もずっと一緒に過ごすことができる、という幸せを、しみじみかみしめていました。

さて、調律もリハーサルも順調に終わり、あとは本番を待つのみ。ステージ衣装に着替えの必要な生徒さんを楽屋に案内すると、ずらりと並んだ鏡やその脇の照明、楽屋名物(?)の大きな姿見やハンガーの数々に「わぁ、すごぉい!!芸能人みたい…」と歓声が上がります。そして、ドレスに着替えると「美奈子先生、見てみて!」ぴょんぴょんその場をとび跳ねて見せる天使のような姿に、思わずぎゅうっと抱きしめたくなってしまいます。

本番での生徒さん一人ひとりの演奏はそれぞれに申し分なく素晴らしく、ピアノという楽器や音楽を介して皆さんと関わりが持てたことに、感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました。嬉しかったのは、ご父兄の方やおとなの生徒さん方が「お手伝いしますよ」と、快く協力を申し出てくださったことです。会場のアナウンスや記念撮影や照明、片付けに至るまで、たくさんの皆さんに助けていただいて、なんとか無事に終えることができたのでした。

男の子の照れたような笑顔。唇にグロスをぬってもらって、お姫様のように可愛らしく装った女の子の天使のような笑顔。人の笑顔って何よりも素敵なものです。私は昨日、彼らにちゃんと心からの笑顔で接していられたかしら。今年の目標は、たくさん笑顔でいることです。

昨日いらしてくださった皆様、本当にありがとうございました。

2008年01月06日

« 第362回 器用さも器量もなくっても | 目次 | 第364回 雪の音 »

Home