第339回 ピレネーをうろうろ フランスにめろめろ④

スペインとの国境付近の町コリウールを満喫し、ペルピニャンに戻ってスーパーで買い物をします。出来合いのお惣菜やサンドイッチは高いのに、バケットやパテ、チーズなどの食材は日本よりも安いので、材料さえ揃えば買ってきたのと変わらない(それ以上?)クオリティーのサンドイッチを作れるのですから、これは自作しない手はありません!…レジに並んでいると、すぐ前の小さな男の子を連れたお父さんがちらりとぼんやりしている私を見て、「よかったらお先にどうぞ。僕はこんなにたくさんの買い物があるので、あなたの後でいいから」と言って、順番を譲ってくれました。レジのマダムにもその旨を伝えて、スムーズにお会計を済ませてもらえたので、「すみません、ありがとうございます」とお礼を言うと、彼はちょっと険しくみえた目もとをフッと緩め、自然な笑顔を返してくれました。

レジの人には「こんにちは!」「ありがとう!」と、みんな必ず声をかけ合っています。私も見習ってレジの女性に「ありがとう、マダム。ボン・ソワール!(←これはさようなら、の意味でも使われている)」と言うと、彼女はにっこり笑ってウィンクしてくれました。

カタルーニアの人たちは皆、ウィンクやほほえみが上手です。明日の朝ごはん用に買ったチーズやパテを、保存する冷蔵庫が部屋にないのに気づいて、宿のご主人に「すみません、これなんですが、冷蔵庫に預かっていただけませんでしょうか?」とお願いした時も、彼は「まったく問題ないよ!問題があるとすれば、それは君がこれを取りに来ないで、そのまま行ってしまうことだけ!」と、感じよく微笑んでくれました。

さて、翌朝。ちゃんと食べ物も受け取って、いよいよ次の土地、トゥールーズに向けて移動です。リュックにはすでに、自作の二種類のサンドイッチ(鴨のパテのサンドイッチと、シェーブルチーズとトマトのサンドイッチ!)が入っていますが、水を調達するために駅の近くのスーパーに立ち寄ります。お店に入るなりレジの女の子に声をかけられました。「あら!そのお荷物、よろしかったらレジのわきにでも置いていって下さいな。店内をご覧になるのに大変でしょう?私、見てるから大丈夫よ」と、弾むような声です。彼女はレジを打ちながらレジのお客さん一人ひとりと、何やら楽しそうに言葉を交わしています。そのイントネーションは明らかにパリ界隈のものとは異なった、まるでスペイン語のようなリズムに聞こえました。

確かに、治安については「!?」と感じる瞬間もありました。例えば昨日の夕方の買い物帰りに、ズボンの上から女性用のパンティ(!)をはいた男性から声をかけられたり、あまり身なりの良くない人に「タバコを一本、もらえませんかね?」と呼び止められたり…。これには警戒して「ノン!」と強く答えてしまったのですが、この日も駅に向かう途中、やはり浮浪者風(?)の男の人から、直ぐ前を歩いていた若い女性が「お嬢さん、タバコを持ってたら一本、もらえませんか?」と、声をかけられていました。ところが彼女は黙って足を止め、バックからごそごそタバコを一本取り出して、はい、と事もなげに男の人に手渡しているではありませんか。しかも、火までつけてあげています!…なんだか、昨日の自分の素っ気ない行動を、ちょっと反省してしまいました(…と言っても、どの道タバコは持っていないので仕方なかったのですが)。

プラットフォームで列車を待ちます。すぐ近くに英国人の観光客男女四人が、アングロサクソン人らしい演説するような口調で話をしています。「結局、ホテルのフロントは、完全に間違っていたってことよね。列車の到着時間はちっとも彼女の言ってたとおりの時間じゃないわ」「フランスだから、仕方ないよ」「あら、私は結構そういうとこも、面白いと思うわ。こういう(質素な?)フランスの駅も、キライじゃないし…」彼らの会話を聞いていたら、ふと日本でも流行った、ピーター・メイルの『プロヴァンスの12ヶ月』という本を思い出しました(メイルも、英国人)。

列車に乗って身づくろいしていると、前の座席の鼻にピアスをしたマドモワゼルが背もたれの上から私の方を振り返り「すみません。ちょっとお聞きしてもいいですか?この列車って、カルカッソンヌ止まります?」と尋ねてきました。辛うじて彼女のフランス語が聞き取れたので「ええ、止まりますよ」「じゃぁ、モンペリエは?」「モンペリエは…多分、経由しないんじゃないかしら。あまり自信ないのだけど」「ありがとう!」実は、モンペリエには止まらないというのはほぼ確実なところだったのですが、万が一ということもあるし、第一それに明確に答えたら今度は何を聞かれるか、ちょっと怖くなってしまって…。それにしても、なぜ外国人の私に尋ねるのでしょう?(そういえば、異国で道をたずねられることが少なくないのです)。

トゥールーズまでの車窓は素晴らしいものでした。ナルボルンという地中海沿いの町までは左右が海、という景色が広がっていましたし(到着当日、ムッシューが教えてくれたけど、暗くてよく分からなかったのです)、途中のルルドという町の近くでは雪のピレネーが実に美しく見えるのです。私はここでこれまで出会った人たちの微笑みを思い出しながら、リュックからサンドイッチ、りんご、ミネラルウォーターを取り出し、景色も食べ物も、一つ一つかみしめるように頂きました。
(*ピレネーをうろうろ フランスにめろめろ⑤につづく)

2007年06月22日

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