第335回 ビジネスクラス体験
このところの不景気ムードにもピリオドがうたれつつあるようで、今年のゴールデンウィークもたくさんの人が海外での休日を楽しんだようです。私がヨーロッパにいた頃と変わったな、と思うのは、みなさんの行き先が多岐にわたってきたことと、小さな子供さんとも一緒に、どこへでも出かけるようになってきたこと。
以前はフランス、ドイツ、イタリア、ギリシャ…“人気”が特定の国に集中していて、私の留学先のハンガリーなんて、ガイドブックも出ていないほどでした。それが今ではチュニジア、スロヴェニア、ルーマニアにドバイ…ガイドブックを見るとその情報量の多さには驚くばかり。もっとも、ガイドブック以上にインターネットの情報の方が治安状態や天候などの時事性も含めて、充実したものになっているようですが…。
小学生以下の小さな子供さんを連れている観光客の姿を見ることも、ほとんどありませんでした。珍しく見かけると、たいていそれは商社などの方で、お仕事の都合で家族でその国、もしくは近隣の国に住んでいらっしゃるパターンがほとんどでした。今では縦横無尽に(?)、ヤングファミリーを呼ばれるような世代の皆さんも、海外旅行を楽しまれています。地球が小さくなってきているような感じです。
前回、一人でヨーロッパを旅したとき、私以外は全員が団体ツアーの方々でした。搭乗手続きをしたら、こともあろうに他の皆さんで席は見事に埋まっていて、私の分がすでにない、というのです。いわゆる、ダブルブッキング…。以外にこれは珍しいことではないので、グランドホストの男性も対処に慣れている様子でした。「大変申し訳ありません。代わりにビジネスクラスのお席をご用意させていただきます…」
やった!初めてのビジネスクラス!!…我がスイートシートに向かうと、そこにはエコノミーのシートが思わず気の毒になるような、ゆったりとしたスペースがありました。ポーチの中のアメニティーも充実。ただ、座ったとたんに目が合った、このシート担当と思われる客室乗務員の目つきに、ちょっといやな予感が…。
精悍な、典型的ハンガリー人の顔つきをした彼は、「お客様、お飲み物はいかがですか?よろしかったらブランデーなどもご用意させていただきます」いいですいいです、そんな、まだ食事でもないのに…というか、まだ飛んでもいないのに。私がハンガリー語を話すと知るや、ますます「新聞はハンガリー語、英語、日本語…どちらをお持ちしましょう?」「食前酒には、特に何かお望みのものはありますか?」「ブランデーはいかがですか?(なんでまたブランデー?ハンガリー人にとっては、カミユは贅の象徴なのか?)」と、過剰気味…。
ああ、やっぱり予感があたってしまいました。もともと、ハンガリー人の温かい、というよりも“熱い”という言葉がぴったりくるようなホスピタリティー(おもてなし)は大好きなのです。おせっかいなくらいにこちらを気にしてくださったり、ひっきりなしに話しかけてくれたりお酒をすすめてくれたりして、パーティーでもゲストを決して一人にさせません。心から楽しませ、寛がせてくれる彼らのおもてなしには心から感激しましたし、尊敬を抱いています。でも、いかんせん今回は一人旅。ブダペストまでの直行便だったので、体力温存のため、長い機内での時間、少しでも寝ておきたかったのです。
寝る体制をととのえていると、すかさず“彼”が来て「お寒くありませんか?ブラケットをもっとお持ちいたしましょうか?」とくる。もう、こうなりゃ受けてたとうじゃないの。開き直って「大丈夫です。ありがとうございます。ハンガリーは何度くらいでしょうね?」「到着予定時間には、20度ぐらいということです。何日くらいのご滞在なのですか?」「2週間ほどです。」「ホテルはどちらに?」「(何で?)実は今回は、ブダペストよりもソンバトヘイのほうが長いのです(うまく逃げた!)」…そして会話はお決まりの方向へ。「当機には日本のお客様が多くいらっしゃるのですが、ハンガリー語の“たくさん召し上がれ!(慣用句)”は、日本語でなんと言うのでしょう?」「う~ん、難しいですね。同じような意味の言葉ではないのですが、そんなときに私たちは“どうぞごゆっくり”とか“ごゆっくりどうぞ”と言います」
結局ほとんど眠れませんでしたが、長いフライトの時間もお陰で飽きることなく(?)過ごすことができました。でも、ビジネスクラスってもっと優雅なものじゃなかったのかしら。そういえば、映画もろくすっぽ見られなかった…。
それでも、「行き」はゆったりシートで美味しい機内食とワインやブランデー(負けた!)、そして久しぶりのハンガリー式ホスピタリティーを満喫できたのですが、帰りの便は、思いもかけない、大変な展開が待っていたのでした。