第292回 カルチャーな国へ

来週、フィンランドに発ちます。ムーミンにサンタクロース、キシリトールにノキア、マリメッコやアールトの建築、森と湖とシベリウス、そしてハンガリー語と同じように、他のヨーロッパとは違うと語族の言語を持つ国、いうのが私のこの国へのイメージでしたが、調べてみると他にもいろいろと分かってきました。

最も政治家の汚職が少ない国。国際競争力、及び環境維持可能指数世界一位の国。世界で最も水質のきれいな国。世界一IT活用の進んでいる国、そしてコーヒー消費量が世界一の国、はたまた国際統一テストにおいて読解力世界一位を維持している国…と、興味深い“世界一”が並びます。とてもカルチャーな国です。

ハンガリーにいた頃、デュオを組んでいたハンガリー人チェリストはフィンランドに親戚があって、よく話を聞かされました。

「大体の人は地方にサマーハウスを持っていて、夏のバカンスはそこで過ごすんだよ。ほら(写真を取り出して)、これが僕のおじさんとおばさん。おじさんのサマーハウスは湖の近くにあって、建物の外にサウナがある、典型的なフィンランドのコテージさ。あ、サウナって、わかる?」
「わかるけど…。あまり好きじゃない(*こんなふうに可愛くないことを、正直によく言っていたなぁ)。そこで何をして過ごすの?夏は白夜なんでしょう?」
「うん。だから湖で泳いだりサウナに入ったり、ビール飲んだり、本読んだりしてぼ~っとするんだよ。」
「ふ~ん…(*バカンスというものが、この時点ではよく理解できていなかった)」
「湖で魚を釣ったりすることもあるよ!…君をいつか、是非連れていきたいな」
「え~?釣りもあまり興味ないわ(*この頃は本当に音楽にしか興味がなかった。ちなみに今は是非、釣りもやってみたい!)。大きな魚を触るの、なんだか怖いし…」
「いや、釣りに、じゃなくて、君をフィンランドに…。母も君のことは大好きだし、賛成してくれると思う。僕、フィンランドのオーケストラに入りたいんだよ。フィンランドはここ(ハンガリー)よりもずっと社会保障も進んでいるんだ。言葉もね、ハンガリー語とは似た言語だと言われているんだよ。僕からするとフィンランド語って、日本語の響きにも似て聞こえるんだけど…」

確かに、最近聞いた話ではフィンランドのオーケストラの団員のお給料は日本のそれの三倍ということですから、ハンガリー人の彼からすればまさに“夢の国”だったことでしょう。

ところで、シベリウスやパルムグレンらフィンランド人の曲を聴いていると、彼らの孤独感はちっとも暗くなく、むしろ孤独を積極的に味わっている雰囲気を感じることがあったのですが、最近、フィンランド通のある人が「(どこかを旅すると)ドイツ人はよく“色んな人と会って、楽しかった”と言うが、フィンランド人は“人と会わなくて楽しかった”と言う」というのを聞いて、なるほどな、と思ったのでした。きっと彼らは、人の間で様々な刺激を受けて生活する日常も、人のいないところで自分や自然と向きあう非日常の時間も、両方とも大切に思っているのでしょう。

また、フィンランド語を調べていたら、「月」の言い方が独特なことに気づきました。他のヨーロッパ語とは明らかに違っているのです。語意を調べたら、なんとそれはその季節の特徴や農耕に根ざした言葉なのでした。

一月=タンミクー(冬の真ん中)、二月=ヘルミクー(水滴も凍る厳冬期)、三月=マーリスクー(雪解けに土が顔を出す)、四月=フフティクー(開墾はじめ)、五月=トウコクー(種まき)、六月=ケサクー(畑をすき直す)、七月=ヘイナクー(干し草を作る)、八月=エロクー(作物の収穫)、九月=シュースクー(秋の始まり)、十月=ロカクー(雨と霧で畑は泥まみれ)など…。

そういえば、カルチャーの語源は“耕す”。ハイテクと農耕、現代アートと森と湖に囲まれた素朴なコテージ生活…。魅力的なその国のふところに、心のアンテナを大きく広げて、飛び込んでこようと思います。

2006年06月29日

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