第284回 グッド・コミュニケーションを…!
先日初めて、自分のブログというものを開設しました。
こうしてもう6年にわたってエッセイはしたためているものの、最近ネットで見かけるような個人的日記の要素の強いブログを広く公開することに抵抗があったのですが、色々なお話を伺っているうちに、これが日記である必要もないのかな、と考えるにいたりました。確かに、他の方のものを見ると、完全な日記スタイルで書いている人もいれば、何かのテーマに基づいてのメイキング日誌的な使い方をしている方もいて、その内容や趣旨は様々です。
「(ブログには)中傷や悪戯の投稿が必ずあるから、問題もある」、という意見も在りますが、それはつきつめれば、いつでもどこでも、何をしていても同じことかもしれません。気にし始めてはきりがないことだ、と割り切ることにしました。まだまだ、内容はこれから練っていかなくてはならないところですが、何かを作り、発表するのは基本的に好きなようなので、楽しんでやっていこうと思っています。
楽しんで…、といえば、先日福島県某所で行われた、とあるコンクール課題曲についてのレクチャー・コンサートは、休憩なしの二時間半で、40曲あまりの作品にふれなければならない、という過酷な内容にもかかわらず、とても楽しい時間を過ごすことができました。
一つには、聴いてくださった先生方がとても熱心で、途中で質問をしてくださったり、ちょっとした“小噺”(?)にとても素敵な笑顔で反応してくださったり、と、会全体が和やかなムードの中で進行できたことが大きかったと感じています。いくらこちらが万全の準備(これがなかなかできないのだけど…)をしても、参加してくださる方との充分なコミュニケーションが得られなければ、良い会であったとは言い切れないと思うのです。
通常のコンサートでは、お話しは置いておいて、「演奏」のみでお客様との対話を図るところなのだけど、それで和やかに意思の疎通をはかるのはなかなか難しい…。ましてやそれが、古典派時代の絶対音楽だったり、聴いたことのないような作品の場合、お互いの間に緊迫した(?)空気が流れることになりがちです。でも、逆にお客様とのトークを通してほんの少しでもコミュニケーションが深まり、それが作品への興味や共感に繋がる可能性があるのなら…。もともと作品と自己のメッセンジャーである(と、私は思っているのですが)演奏家としては、是非、取り入れてみない手はないと思うのです。
この頃は珍しくないことですが、そんな思いで15年以上前から、リサイタルでは基本的にトークを入れています。「演奏家なんだからしゃべくり抜きで“音”だけで“勝負”しないと!」という意見の方もいらっしゃるかもしれませんが、そもそも演奏で何かと“勝負”しようとは思っていないものですから…。勝負ということは、例えば「自分がその行為を通して、世の中に“認められる”か否か」、ということになるのでしょうけれど、私の場合、音楽に接しているのが楽しいから弾くのであったり、お客様と音楽によるコミュニケーションをとることが好きだし、そこから学ぶことが多いのでコンサートを開くのであって、世間が認めるかどうか云々…、というのは大分以前から、脳みそを去ってしまっている観念なのです。
それが良いことなのかどうかは分かりませんが、先日のレクチャー・コンサートが楽しひと時になったのは、とても嬉しいことでした(解釈法、指導法、奏法や練習法をご紹介しながらの演奏は目が回りましたが…)。
かの天才グレン・グールドも、レコーディングだけでなく自身のラジオ番組や著書をも、自己表現の媒体に使っていました(余談ですが、写真集まででています)。私も、恐れ多くも彼に習って(?)、形式にとらわれず、音楽作品とその演奏を通して、人、あるいは人の心とつながりを築いていけるような活動を目指していたい、と思っています。