第283回 学びのレッスン時間
他の先生から私のところにピアノを習いにきた生徒さんは、まず驚きます。どうも、私のレッスンスタイル(?)は日本の他の先生とけっこう違うらしいのです。
そういえば、日本では私も自分みたいなレッスンを受けてはいなかったな、と、思い出しました。ピアノのレッスンというと、まず先生の前で曲をひと通り弾き、良くなかったところなどについての注意を頂きながらもう一度弾き、…それを何度も繰り返しておしまい、ということがほとんどでした(レッスン中「はい」しか言わなかったこともあったような…)。
「うん、ありがとう。…今弾いていてみて、自分ではどうだった?」「○○ちゃんはこの曲、どんな“キャラ”だと思っている?」いつもではありませんが、生徒さんが弾いた後、いきなりこんな風に質問することもあります。どうも私は、生徒さんへの質問が多いようなのです。レッスンというのは、先生が一歩的にしゃべるもの、と認識している生徒さんは、初め何をどう、話したらいいものか、戸惑うようです。
勿論、話だけでなく、実践的な弾き方、体の使い方や指使い、練習法についてのアドバイスなど、どんどん弾いて示してきます。でも、音じゃなくては伝えられないこともある反面、音だけでは伝えにくいこともあるのです。例えば、作品の時代背景や曲の構造的なものなどは、演奏だけで感じ取るのには無理があります。そうなるとやはり、生徒さんとのコミュニケーションが大切になってきます。
初めは戸惑っていた生徒さんもやがて慣れてくれて、いろんなことが話し合えるようになってくれます。だんだん仲良しになるみたいなその感じが、大好きです。「そうか、自分でも、“気持ち”はあるんだけど、どうしたらそれってピアノで表わせるのかな、ってずっと思っていたんです。でも、今まで感情のことは気にしていたけど、今みたいにきちんと楽譜やテンポを守らないで、いつのまにか気分だけで弾いていた気がする…。今の方が、弾いていて気持ちよかった…」「そうね、今の方がさっきよりもかえって自然に、むしろ自由に弾いていた感じがしたわよ。テンポや拍子を意識するのって、実はちっとも窮屈なことじゃないの。但し、いい感じ方をしてればね。」「うん。ただ自由にしゃべろって言われても困っちゃうもん。何かについて、っていうテーマがあれば話しやすいけど…」
4月から新しくレッスン生になったMちゃんはまだ中学一年生ですが、こんな会話を交わしている時は、なるべく“生徒と先生”というより“音楽仲間”として話し合うように心がけています。ハンガリーで習っていた先生のレッスンの影響かもしれません。こんな音で弾くのとああ弾くのでは何が違う感じがする?どっちの方が好み?どんなところが?…などと、あれこれ音楽の世界を探検しながらレッスン時間はあっという間に過ぎてしまいます。「じゃぁ、これは大分できてきたから、今度までに○○ちゃんの一番好きで、かつこの曲が一番素敵に聴こえるテンポを見つけておいてください。次のレッスンでそれを聴かせてもらうのを、楽しみにしているね。」と言いながら、本当に心からそれを楽しみにしている自分に気づき、“ありがとう”という気持ちになるのです。
勿論、なかなかうまくコミュニケーションがとれないこともあります。とても良くできるし成績もいいのだけど、自分の意見を言えない子も少なくないのです。でも、その子の場合も、自分の意見を持っていないのではないのだ、ということが分かってきました。彼らは彼らで、どういったら私が「よくできました」という評価をするのか、とか「答えが複数あるものを、何を基準に選択するの?」などと、考えすぎてしまっているようなのです。そんな場合は返答を急かさないように、あるいは求めすぎないように気をつけたり…。
「親」が「子供」との関わりの中から、様々なことを学んでさらに人間として成長していくように、美奈子先生は生徒さんに随分、いろんなことを教えてもらっています。