第272回 夢の“ルイジ・ブレンド”
ローカル(首都圏)ニュースを見ていたら、ユニークな図書館の活動について報じられていました。例えば、三〜四畳ほどの個室スペースに大きなテーブルがしつらえてあって、たくさんの資料を人目を気にせず思う存分広げたりできるブースをもつ図書館(一回三時間まで、無料で利用できるとあって、好評なのだそうです)。予約した本を受け取ったり借りた本を返却したりするのがコンビニでできる図書館や、書棚の本が一冊ずつ封筒に入っていて、借りてみないと中味が確認できないシステムになっている図書館、なんていうのも。これは、どうしても自分の読みたいものを選ぶばかりでは読書傾向が偏ってしまいがちなので、新たな分野や違う作家のものとの“出会い”を提供する、という主旨のサービスなのだそうです。
確かに、お目当ての本があるのなら他の一般的な図書館に行けばいいのですから、そういうスペシャルな図書館を利用することを選択できる、というのは面白いかもしれません。なるほど…。
公共機関であれ民間であれ、様々な企画を意欲的に試していくのは、活気や刺激があってよいことだと思います。そういえば、私の周辺のお店も、よくオーナーが積極的に企画を工夫されています。『今、ディナータイムに来店のお客様には、グリューワイン(ヨーロッパでこの時期よく出会う、いわゆるホットワイン。たいてい少し甘くて、スパイスをきかせてある)をサービス!』とか、『期間中は、お料理とワイン、それにコーディネートされたテーブルフラワーアレンジメントをプレゼントで、セット価格○○○円』とか、お店(カフェ)の一角で、作家さんの小さな個展をひらいたり、とか…。
そんな楽しい企画に出会うと、自分も何かやりたくなって、つい考えてしまいます。「う〜む。例えば今度のオール・ベートーヴェンのリサイタルで、何か気のきいたこと、できないかな…」休憩中にワインをサービス?終演後、お客様に、プログラムにちなんだ小さなお土産を手渡すとか?…でもそれらはすでに、経験済みです。何か他にも、あるのではないかしら…。
実は昨日、近所の(実は隣町だけど)大好きなカフェにふらりと出かけ、オーナーや他のお客様とおしゃべりしていた時に、ふと思いついてしまったのです。「そうだ!美味しいコーヒーを、お出しできないかしら?」…しかも、休憩中ではなく、ウェルカムの時に、です。
世間一般では、ベートーヴェンは孤独な気難し屋、というキャラクター・イメージのようですが、実際には話題も豊富でユーモアもあり、訪れた客人には好きだったコーヒーを彼自ら、入れてもてなすことも珍しくなかった、というエピソードを思い出したのです。
会場を訪れたお客様が、思いがけなく香り高いコーヒーの香りに歓迎され、演奏前のひと時をベートーヴェンの客人さながらに暖かいコーヒーを飲みながら過ごせたら、ちょっと楽しいんじゃないかしら。できれば、インスタントや出来合いのもの(例えばペットボトルに入っているような…)ものではなく、その日のために特別にブレンドしたお豆——その名も『ルイジ・ブレンド』!(*“ルイジ”はルードヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェンの愛称)——を、バリスタさんにきちんとドリップしてもらって…。と、夢(妄想)がどんどん拡がります。
勿論、それをそのとおりに実現させるのは様々な事情でかなり難しいことは承知しています。でも、「こんなふうにもてなされたら少し幸せな気持ちになるかも…」、と考えるだけで、自分が幸せな気持ちになってしまうものですから、つい…。
う〜む、なんとか現実にならないかしら、このアイディア…(それでなくとも赤字覚悟の企画なのに、やっぱり無理?)。