第265回 手首足首の法則
ここしばらく続いていた演奏のお仕事も一段落。その開放感か、秋も去ってもう師走だというこの時期に、ムショウに食欲と料理欲が沸いてきて困っています。今日も朝からフルコース(内容は後述のとおり)。夜も二人分ぐらいを平らげてしまいました。(今もお腹が苦しい…。おお、怖い。)
家に泊まりに来た人に必ずびっくりされるのが、私の朝ごはんです。よく、「朝は食欲がないから、パンとコーヒーだけなの」という人がいますし、一度でいいからそんなかっこいいこと言ってみたい!…、と、ひそかに憧れてはいるのですが、私の朝はそんなスマートなコンチネンタルスタイルの正反対。自分の好きなように数種類の粉(強力粉だけでなく、地粉や全粒粉、ライ麦、時には玄米粉も…)をブレンドして焼いたパンに、具沢山のスープかサラダ、キッシュ、または軽い煮込み料理…などを組み合わせたものを山盛りいただきます。あと欠かせないのが自家製ヨーグルトとたっぷりのフルーツ。場合によっては、その他に前日焼いたケーキがつくこともあります。
朝は代謝がにぶいので、あまり食べ過ぎない方がよいと言われていますが、私は「よし、今日も食べるぞ!さて何を食べよう?」というのが、目覚めの大きなモチベーションなので、そんなこと言われても困るのです。「ちゃんと朝から、えらい…。よく起きられるね」と、半ば呆れられながら言われることもありますが、朝ごはんをしっかり食べる(=作る)ようになってから、かえって目覚めがとてもよくなりました。きっと根っからの食いしん坊なのでしょう。
『イギリスはおいしい』の著者である林望さんは、一切の家事を毎日、担当しいらっしゃるそうですが、中でも料理については「毎日の献立を考えるのは大変だ、と、世の主婦はよく言っているけど、毎日主夫をしている自分に言わせると献立を考えること、そして食材を買出しに行くことほど楽しいことはなく、この楽しみを他の人に奪われてなるものか、と思っているほどだ」と、熱く語っていらっしゃいました。この部分については私も同感です。
最近気づいたのですが、料理をする時もピアノを弾く時も、共通してつい、やってしまう動作があるのです。「腕まくり」です。料理や拭き掃除など、水仕事の時は分かるのですが、ピアノを弾く時も癖みたいで、気づくと必ず長袖をグシュグシュッとたくし上げています。なぜか弾く前にこれをすると、「よし!行こう!」と、気合が入るようなのです。
そして、これもまた最近気づいたのですが、どうもこの動作は伝染するようで、生徒さんもレッスンでピアノを弾く前に、腕まくりをしているではありませんか!勿論、「ほらほら、ちゃんと腕をまくらないと…」なんて、指導しているわけではありません。楽譜を胸に抱えて、「お願いします」とぺこりとお辞儀をして楽譜を譜面台に置き、ピアノの前に座ってページを開いて…。さて弾こう、というその時にごく自然な所作で腕をまくる生徒さんを見ると、なぜだか唐突に愛しさが込み上げてきたりするのです。
癖、というのは自分ではなかなか認識しないものです。今、思い出したのですが小学校の卒業文集にそれを書く項目がありました。私は自分で自分の癖など分からないし、かといって他の人に聞いてもこれといって面白いものが出てくることもなく、困った挙句に、「授業中に上履きを脱いでしまう」と、書いたのを覚えています。実はこの癖は今も継続中で、こういう原稿を書きながらもやはり、スリッパは脱いでしまっています。楽しいことをする時は手首を、ちょっと苦手な、頭を使うこと(?)ことに取り組む時には足首を出す習性があるようで…。