第255回 ラブレターは“手書きの紙”にかぎる?
パンドラの箱と化しているダンボールがあります。押入れの中にその姿を見てはいつも気になっていたのですが、もう10年近くも封印され続けていたその箱を、先日ついに開けてみました。そうしたらまぁ、出てくる出てくる…。どうしても捨てられない友人からの手紙の数々やら、アルバムの選にもれた写真やら、思い出の映画のパンフレット、大学時代に夢中になっていたイングリット・バーグマンのポートレイトetc.…それらは当時の私にとっての、まさに“お宝”でした。
映画のパンフレットというのは、例えばバーグマン主演の“凱旋門”や、レスリー・キャロン主演の“リリー”(古い!)の日本初演、じゃない、初上演の時のレアなものやら、あのジョージ・ルーカス監督の“スター・ウォーズ”の始めの三部作すべてのものなんかが、丁寧に自分でカバーまでつけて大事に保存されている、というものです(“お宝鑑定”してみたら結構な価値だったりして?)。恥ずかしい昔のスナップ写真が無数にあるのはまぁ、よくあることとして、特筆すべきなのは友人からのお手紙です。これでも、すべてをとっておくのは居住スペースを圧迫するので、ある程度は整理してきたつもりなのですが、それでもすごい量です。
なかでも、ついに“彼”との結婚を決断することにした、という手紙などは、感動的で、今呼んでも感慨が沸いてきます。「(婚約者の)○○さんには言いたい放題、やりたい放題で、よくもまぁこの私の“いじめ”を笑って乗り切ってくれるものだと感心してしまいます。○○さんは私にとって、男性版のはるお(注:当時の私のニックネーム)なのね。…ならば、うまくいかないはずがない!」「実は、つい先日、周りもびっくりするほど電撃的に恋に落ちちゃったのです。私の左手の小指は、この人との赤い糸のためにとってあったんだ〜!って思える人なの」ううむ、恋する乙女っていうのは、実によいものですな。読み返しているだけで幸せになってきます(中には「はるお〜!その後、酒は鍛えてるか?次に一緒に飲むときまで、ちゃんと鍛えておけよ!」なんていう、手荒いのもあるけど)。
桐朋時代は寮生活だったので、地方出身の友人も多く、ましてや留学などしていた(しかも、自宅には電話がなかった!)ので、手紙のやり取りの数は半端じゃありませんでした。ハンガリーにいた時は、週に数通はびっしりと小さな字で書き込んだ長い手紙を友人に送っていましたから、日本から持っていったボールペン(ハンガリーはまだ共産圏で、こんなものが普通に手に入るのかどうかも、よく把握できない時代でした)半ダースが、一年も経たないうちにですっかり消耗されてしまったほどです。少しでも喜んでもらおうと郵便局ではできる限り記念切手を買うようにしていたので、郵便局の窓口のお姉さんとも顔見知りになっていたし、日本からのたくさんの手紙を届けてくれる私の家の担当の郵便配達員の方からは、個人的にクリスマスカードまで頂きました。
電話やメールですべてが済んでしまう時代ですから、これらの手紙は余計に貴重で愛おしく感じられ、ますます捨てられそうにないのであります。秋の夜長、たまには懐かしい人にお手紙でも書いてみようかな?